経営組織論(組織社会におけるキャリア開発の前提として)


  ここではキャリア開発を進める上での前提として、経営組織論についての基本的な部分をまとめています。

 「組織の歴史と組織論の歴史」であるように、「キャリア」は組織社会の発達や社会での組織の位置づけによって意味付けがなされます。また、「人的資本経営」の側面からビジネスの活性化を目指す中で、どのように個々の「キャリア」を活かしてゆくのかという視点も大切です。一方で、キャリアコンサルティングによる個人支援は、必然的にシステムとしての組織にも影響を与えます。このように、キャリアコンサルタントにとって組織に関する知識は大切です。エドガー・シャインは、組織と個人の相互作用を「キャリア・ダイナミクス」として理論化しています。

 キャリアコンサルティングにおいて、クライアントが勤務している「企業」や「組織」について話す時、それらがどういうものなのか、どういう状態なのかを理解して傾聴する必要があります。「組織」で働くということは、「働くこと」は、経営学では「協働」概念になります。それはどのような場合に成立するのかも理解せずに、ただ単に傾聴を進めても本当のクライアントの抱える問題を理解することは難しくなります。ここではこのような理解の一助として、「組織論」や企業・組織を動かす「マネジメント」に関して、簡単にまとめています。

 前提としての考え方は、組織をシステムと捉えます。外部環境である上位組織に個人を含む下位の組織は適合する必要があります。この内容はキャリアコンサルティングの養成講座でも、エドガー・シャインの「キャリアサバイバル」という形で含まれています。ただ、そこだけを切り取って理解することも難しく感じます。経営組織論の基本程度は理解することが、クライアントの就労支援や企業組織内におけるミスマッチをコンサルタントが受け留める際の一助になります。

 

1.組織とマネジメント 

 「組織」と聴いてどのように思われるでしょうか。一般的にはなんとなく嫌だなと感じる方もいるでしょう。一方で、基本的にはキャリア面談では組織の話はなんらかの形で出てきますので、組織の知識を踏まえて相談内容とどのような関連性があるのかを押さえながら進める必要があります。具体的にはクライアントから、「仕事に就きたい」や「仕事を辞めたい」という話や「職場での人間関係に困っている」「職場になじめない」等の相談が出てきます。その仕事に「就く」、「辞める」、「働く(協働する)」という事が、どの様に定義をされ、捉えれば良いかということを「経営組織論」として説明をしています。

 また、どの様な条件で人は組織に参加(仕事に就く)したり、辞めたりするのかということの基本的な考え方を組織の中で働く=「協働」とはどういう条件があれば成立するのかという点から触れていきます。

 個人と組織との関係性という側面からとらえた時、組織と個人の間でどのような関係性の変化があるのかというシステムの視点からみることも出来ます。

 これら関する知識が「協働」概念や「マネジメント」の基本になります。

 

2.キャリアコンサルティングにおける組織の知識の必要性 

キャリアコンサルティングを行う上で、なぜ組織の知識が必要なのでしょうか。まずはその必要性をもう一度整理をしておきましょう。
 

A.キャリアコンサルティングの基礎知識として(CL理解・関係性の構築力)

   キャリアというものは基本的には組織(学校やそのクラブ活動等も含む)の中で成立します。その為に、クライアント対してキャリアコンサルタントしてサポートする際に、クライアントの所属先である企業(組織)での正しい状況理解の為には、一般的な組織論の知識が必要になります。逆になければ、クライアントが語った事実のみがその現実として固定化されていしまいます。最低限の組織やマネジメントについての知識があるとよりクライアントの置かれている状況がキャリアコンサルタントとしての理解(問題把握能力)として深まると言えます。

・例えば、クライアントが組織の不安を訴えているとして、

 「そもそも、その組織の成立要因や組織機能のどの部分に不安を感じているのでしょうか」

              ・クライアントが部署の方針に不満を訴えているとして

 「部署での目的の共有化」というのは、どういう条件で成立するのでしょうか

 「部署への不満」は、組織マネジメント上では、どのように捉えれば良いのでしょうか。

  ・クライアントが仕事にやる気が出ないと訴えているとして

「組織における誘因と貢献意欲や満足度」と、どのような関係があるのでしょうか、もちろんハーズバーグの理論が参考になります。

 

これらに関する知識がクライアントに対してしっかりと共感しやすいですし、適切なリフレクションも可能になり、クライアント自身の自己理解や仕事理解の共有化(関係性構築力)の手段としても、組織の知識が有効になります。

 

B.組織の基本的役割・機能に関する知識  (問題把握能力)

 クライアントは仕事やその環境となる組織(企業)について話をしますが、適応課題的にクライアントの気持ちに寄り添ったり経験を傾聴する前に、技術的課題として「経営組織論」等から既知の解答を提示した後に、クラインアントがなぜそれを出来ないかの現状について、気持ちの寄り添ったり経験を傾聴した方が、クライアントの課題解決としては有効です。そのような対応が出来ないと、相談者が問題を共有してもらえないと捉える可能性があります。

 そもそも組織(企業)は、歴史的にどのような社会的機能を有し、組織(企業)は誕生してきたのか、また、社会的にはどのような使命をもつのか、その前提の中でクライアントの不満は組織の順機能に不満を感じているのでしょうか、または、逆機能に不満を感じているのでしょうか。(順機能・逆機能は後程に出てきます)

 上記のような課題に対する(技術的課題に対する)リソースをキャリアコンサルタントが持つことにより、悩んで相談に来ているクライアントに、よりうまくリフレクションも行うことが出来ます。

 

C.組織への働きかけの際のコミュケーションに必要な知識として (課題解決能力《組織への介入》)

 キャリアコンサルタントはクライアントへのサポートの一環として、「組織の働きかけ」を行います。組織への働きかけを行う場合、組織メンバーとコミュニケーションする必要がありますが、組織やマネジメントについての適切な知識があれば、そのコミュニケーションをより(単純に、組織や上司を悪者することなく)適切に行う事ができます。組織の知識があれば、組織メンバーと対話する場合に枠組をある程度共通にして対話が出来ますし、環境である組織に対するクライアント支援でも重要な知識になります。逆に、組織の適切な知識がなければ、単なるクライアントの個人利益の代弁者として、組織と対立する立場としてのみ捉えられることになります。

 クライアントの組織への働きかけを行う為には、クライアントシステムへの介入を前提とするMRIブリーフセラピーを交えたキャリアコンサルティングが有用になります。この場合に経営組織論の知識は、「ノーマライズ」「コンプリメント」等を的確に行う為にも必要になります。クライアントの組織への働きかけをする場合も「2次的変化(組織のダブルループ学習」として、組織の変革へとうまく近づけてゆくことも可能になります。単にクライアントの属する組織で正しいマネジメントが行われていないだけの場合は、クライアントの問題をクライアント自身から「外在化」することも出来ます。

 

3.「企業(組織)」とは、

まずはキャリアが育成される組織の代表である会企業(会社)とはどういったものでしょうか。

 

 昔からよく言われているのは、会社は「人」「もの」「金」と言われています。
「人」(人材)で構成されていて、「もの」(事務所・工場・機械など)を使ってなんらかの活動を行いますが、それには資本となる「金」が必要です。

但し、大切なポイントは、「もの」と「金」も、「人」が使うものという点になります。

 

 それでは、組織においてキーとなる「人」を活かすにはどうすれば良いでしょう?
単に集まっただけではバラバラに非効率に動いてしまう「人」を統制・コントロールするにはどうすれば良いのでしょうか。 
 「人」に集まってもらって、一定の方向に働いてもらうにはどのようにすればよいのでしょうか。

 面談の場面で相談者が働きたくないと訴えている場合に、この観点から考えてどういう事なのかを知ることはクライアント理解を助けます。普通に考えれば、当然に「人」は自由に動きたいはずです。そもそもほとんどの人は正直言えば、あまり働きたくないというのが一般的な感情ではないでしょうか。

 このような人の協働(Cooperation)がどのように行われ、有効的に行われる為には何が必要なのかを明らかにすることが、組織論の主要なテーマになります。組織自体はこの協働が行われる為のツールという位置づけになります。

  

 これらの疑問を解決する為に、経営学(administration)が成立しました。 疑問の解決の為には、「組織の把握」と「組織の統制」という課題が出てきます。また、これらを理解する為には、経営活動(Business Administration)、官僚制(bureaucracy)や適切な組織マネジメントというものについての理解が必要となります。経営組織論はテイラーの「科学的管理法」から発展してきましたが、これは単純な機械的な管理の仕組みでなく、テイラーリズムとして、「マネジメント」の役割りは企業と従業員の利益を一致させ、企業の業績と従業員の福祉を同時に増大させるという前提から成り立っているものです。

 

.組織における協働(Cooperation)の成立 

これまでのポイントをまとめると次のようになります。

マネジメントとは、管轄する組織をうまく処理する(Manage)こと。

対象は組織自体ですが、実際に扱うのは個々の構成メンバー(人)の協働(Cooperation)行為が対象となります。

 

C.I.バーナードの経営学における組織の定義は、

「社会目的を達成する為の人の「諸力」によって構成された協働システム」です。

 ここでは、「諸力」をフォーマル・インフォーマルの対話を通じたナラティブやディスコースと捉えています。

そしてこの「諸力」をコントロールする理論が人間工学(ブリーフセラピー(MRI・SFA))と捉えます。

 

 バーナードによると、組織(協働)の成立の要因とは以下の3点になります。 

A. 協働参加メンバーの存在(人の集まり)=貢献意欲が必要

 誘因(インセンティブ・モチベーションアップ・満足度)≧貢献

参考)マズローの5段階欲求

   ハーズバーグの衛生要因 

B. 共通目的の存在

協働作業としての明確な目的の設定

C.組織内のコミュニケーション 

・組織内での目的の共有化

・メンバーが組織に従属をできる前提として、

        理解でき、かつ物理的にも受け入れられるリーダーからの指示(権威受容説)

 

 ☆組織論においける定義としては、観察される「協働(Co-operation)」行為が現実・実態(Reality)であり、協働がうまく働くことにより社会もうまく行くと考えられますので「協働」が組織論の対象となります。

 「協働」とは人間間の交流作用ですので、それをシステム論として観ていくことになります。つまりクライアント・システムを観るという概念になります。ブリーフセラピーもクライアントのシステムを観てゆきますので、組織に介入する組織開発ブリーフセラピーを利用してゆくことが出来ます。

 これに対して「組織(Organization)」は、協働が行われる場所としての概念(Concept)であり、組織論では「協働」行う為のツールとしての位置づけになります。

 

 近年は、コーチングやノウハウ的な分析等に組織論はどんどん部分化・細分化されてはいますが、そのベースとなる全体としての組織論の理解が大切になります。

 

 .組織の統制(Control)

 それでは、組織の統制(Control)ついて考えてみましょう。

単純化する為に、「マネージャー」と「メンバー」という視点で把握してみましょう。

 

 マネージャーはメンバーに、「①指示や要請」を出します。それに対してメンバーは「②報告・連絡・相談(ほうれんそう)」を行います。この①②がスムースに行われるのが、「経営管理(Administration)」です。ただ、これがスムースに行われる為には、後に詳しく出てきますが、メンバーによるマネージャーに対する「権威の受容」が存在する必要があります。

 

 それと同時に、メンバーがマネージャーの①指示・要請を受ける為には、その組織に参加していなくてはなりません。その為には、会社(組織)の代表であるマネージャーからメンバーに③誘因の増加(モチベーションアップ)が図られる必要があります。これを受けてメンバーの④貢献意欲の増加により「より良い結果」をもたらす事が可能になります。この③④をうまく処理するという点からここでは「マネジメント(Management)」としています。キャリアカウンセリングの部分ではこの③④の部分については、ハーズバーグの衛生理論として紹介されています。

  つまり「上司」と「部下」がある共通概念(ナラティヴ)を伴った管理のもとにマネジメントは成り立つと言えます。

 

上記の点から考えると、クライアントが組織に不満を持っている場合、技術的な課題として、次のような組織的な要因等が考えられます。

A. 組織の指示・要請がクライアントにとって不当である

B. いわゆる「ほうれんそう」がなんらかの理由で上司に出来ず、組織の関係性が崩れかかっている

C. 組織参加の誘因が十分でなく、実質的には心理的に組織に参加できていない。

D. 組織への貢献を行ってはいるが、組織の全体ニーズを満たしている感がない。

E. 組織の「共通目的」が、組織内においてうまくクライアントと共有されていない、

F. 組織目的がクライアントの価値観とあわずに受け入れ難い

  これらは、いわゆるエンゲジメントに関する概念になります

 

  これらの知識を基にクライアントに対応が出来れば、組織への働きかけ(組織開発)においてキャリアカウンセラーとして組織の有効性が増す方向への働きかけを実現できる可能性が高まります。また適応課題に集中して解決に向かうことが出来ます。

 

 6.組織(協働)の単位

 組織とは、ある目的に向かって協働(co-operation)を行う人の集まりです。

それでは、組織(協働)の範囲とはどのように考えるのでしょうか?

 

狭義の組織とは

会社・事業所、あるいは、課長、リーダー、メンバー3名の計5名のユニットグループ等になります。

広義の組織(売上げの達成の為に)とは、

社内など関連部署及び卸・小売店(従業員)と消費者までを含む幅広い範囲が組織とも言えます。
             
消費者との目的の共有化 ex「良い品を適切な値段で取引したい」

 

 本質論的な経営学の見方では、この広義の見方は組織の範囲が不明確という批判になるようです。逆に、バーナードと同じく実務という面で社会構成主義的に経営学を捉えると、組織は対話が行われて協働がなされる範疇であり、消費者までも含まれることになります。

 

7.組織範囲の概念とは?

マネジメントの対象としての組織

ポイント:必ずしも実体として組織されているものだけでない
    :(対話が成立している)得意先を含めた組織化を意識する必要があり。

 

例題 ;

これは組織ですか? 同じメンバーが下記の状況にあったとして

.電車内で、たまたま一緒に乗っている乗客
.電車が急に止まり、一緒に石をどけて、電車が動くようにする
.電車に乗り、みんなで社内旅行に行く

 

一般的に、組織とは23を意識すると思います。 

では、「2・3」と「1」との違いは何でしょう?

参加しているメンバーに共通の目的があるかどうかで判断している訳ですね。

 特に、2の場合は、その場でのリーダーと目的を共有化する為のコミュニケーションが必要ですね。また、メンバー側にも「協働意欲」が求められます。
 メンバーにとっては、「早く目的地に着くために石をどける」≧「石をどける作業するという肉体的負担」という内的動機付けがあると思います。

 3.の場合は、事前に「共通目的」は、リーダーによって準備された「旅のしおり」により、共有化されているかもしれません。

 

ここでの大事な点は次の通りです。

A)    このように無意識でも、我々は組織であるかどうかを判断する事ができます。その時、メンバー、共通目的、コミュニケーションが必要ということを無意識でも感じているように思います。そういう意味で、組織に対する感覚はある程度すでに我々の中に共有されているという事です。

B)    もうひとつ大事な点は、まったく同じ人間がそこに存在していたとしても、組織化されていたり、組織化されてなかったりする点です。

 実は会社の中でも、「共通の目的」がメンバー間で意識されていなかったり、コミュニケーションがうまくいかず、「共通目的」があいまいとなり、企業内部の組織でも組織化=協働が成立していないくて、外的には組織の形態をとりながら、組織(協働)として機能していない可能性もあるということです。
 組織化がしっかりとなされていない形だけの組織内では、メンバーの不満は高くなると思われます。

C)    実は1の場合も、メンバーだけでなく、電車を運行している会社という面も含めると組織として成立していると言えます。メンバーは電車が動かないと目的地には行けませんし、電鉄会社は乗客から運賃をもらえないと電車を運行出来ません。この場合、共通目的は「電車の運行」ですが、目的に対するそれぞれのニーズが違っています。これを金銭のやり取りによって、相互コミュニケーションが図られているという事も言えると思います。
これは、広義の組織の範囲ということになりますが、幅広く企業活動にも適用できます。企業が「目的」を達成する為には、通常「共通目的」を持って頂ける「顧客(協働メンバー)」が必要です。また、この視点から考えると、いわゆる営業活動はその観点が変わってきます。

 Ex. 2021年に新型コロナウイルスの影響により、消費者である乗客が減ると電鉄会社(組織自体)に影響を及ぼし、電車の本数が減ったり、終電が早くなったのは、この実例となります。

 

この例題の目的は、組織(協働)の成立を考えてもらう為のものでありましたが、理解頂けましたでしょうか。

 我々キャリアコンサルタントにとっては、クライアントと組織の関係性を考える時に、「共通目的」「コミュニケーション」等はしっかり把握しながら、キャリアコンサルティングを進める必要があります。

 

では、次に、「誘因と貢献」「共通目的」「コミュニケーション」等について詳しくみてゆきましょう。


 

 ここでは広義の組織として、下の図のように組織の範囲を広く捉えています。バーナードの理論への批判のひとつに組織を本質的に捉えた場合、組織の境界があいまいであるというものがあります。但し、バーナードも実務家でしたし、実務から捉えれば組織はその影響(対話)が認識として続く限り拡がることになります。また、この概念は社会構成主義的なものとも言えます。

 

 

8.組織の成立①

Ⅰ.協働参加メンバー(人)の存在=協働意欲

 忠誠心・団結心・団体精神・組織力など

 A)誘因

   インセンティブ 

    収入・社会的地位 等

    モチベーションアップ・満足度
                     
マズローの5段階欲求の充足 

               以下の5段階 

      1.生理的欲求

2.安全の欲求

3.帰属の欲求

4.自我の欲求(賞賛される・自尊心など)

 5.自己実現の欲求(個性・正義・楽しみなど)

 ☆3~5は、精神的欲求であることが重要です

 

   懲罰的誘因

     異動時に、本人の好まないことを実施することで、貢献を促す。

     •       忌避すると殺すぞ!!など(極端な場合(旧日本軍))

     指示されたことはやらないと駄目でしょう?なぜ出来ないのですか!

(これらのような叱咤も懲罰的誘因かも?知れません

 

 

8.組織の成立②

              B)貢献

労働・献身・協力する等を実施するにあたっては、

構成員個人にとっては、 誘因>貢献が協働の条件(組織従属の条件)

  

 キャリアコンサルティングにおけるポイントしては、クライアントが辞めたいと相談してきていても、組織に在籍している時点では、あくまで現状は組織に対してまだ 誘因>貢献 の状態にあるという前提で把握することが大切です。

 既に、退職をされている場合や次の会社を決めている場合は、すでに、誘因<貢献 になっていると言えると思います。

また、カウンセリング場面では、誘因と貢献要素を丁寧に聞き出し、クライアントの本当の誘因と貢献の割合を確認してもらうという事も、大切なポイントになります。

 

 ☆キャリアドッグ等でキャリアコンサルティングを行う際に、それらをやって従業員の自律性が高まり、会社を辞めたり転勤希望が出たらどうする?という話題がでますが、それはマネジメントの誘因という概念がそもそも抜けて落ちています。バーナードもうまく行かない組織は誘因に対する認識が欠けていると指摘しています。この意味からは「誘因」をどう構成してゆくかが組織マネジメントにとって実に大切だということになります。

 

 ★外部への営業活動でも、得意先に対して:誘因>貢献をいかに実現するかが大切です(参考

  如何に、得意先のメンバーへの目的共有の意識付けできるかが大切になります

★消費者にとっては?
商品の価値・バリュー>価格が大切になります

  購入動機が発生する前提となります

  

9.ハーズバーグの衛生要因 (参考)

 動機付け要因(=誘因)

「達成すること」

「承認されること」

「仕事そのもの」

「責任」

「昇進」

衛生要因(=労働条件)

「会社の政策と管理方式」

「監督」

「給与」

「対人関係」 

「作業条件」 

 

 10.組織の成立③

Ⅱ.共通目的の設定

組織の目的は、 構成メンバーの誘因(参加動機)とつながっている事が望ましい

会社組織の場合は、社会的必要性(社会的責任)が必要

社会環境適応性⇒適応できないと倒産

(企業の外部適応性)

☆マネジメントは、目的に対し外部の制約を発見し、

  組織としてどのように対応するか考える事でもある。
                                                       

☆マネジャーとして大切な役割のひとつは、

共通の目的が存在しているとメンバーに植えつけること(=コミュニケーション)

   

 11. 組織の成立④

Ⅲ.コミュニケーション

権威受容説(法定説・職能説もああります)

権威=どのような動機付けで従業員は組織(上司)の指示に従うか?(いろいろな考え方があります)

 

Communication (伝達)の存在≒指示・命令系統

権威(Authority)⇒指示する権利

⇒結果として、指示がいかに効果を発揮するかが大切

権威が効果を発揮される為には・・・・!

 聞き手(メンバー)が

・ 理解でき

・納得でき(組織目的と矛盾しないと判断)

・活動が可能

・個人的利益と共存できること

 ⇒この時に、communication(伝達)としての指示が成立する。

 

権威の成立(受け手が受容可能な時)←受け手が納得できる場合 の分類

・適切な命令(組織目的と矛盾しない) 

・個人にとって無関心でいられる範囲

・非公式組織を通じての受け入れられる「共通意見の醸成」

・上位者の指示が「組織の存続」と矛盾しないと感じられる場合

☆上記と逆の場合は、受け手が指示を受容できず「権威」が成立しない

 

12.権威(authorization)の成立=権威受容説 

権威は、コミュニケーションを通じて受け入れられて、初めて効果を発揮する。

逆にいえば、権威が受け入れられなければ、権威は成立しない。

例話 メンバーは、

通常業務でははきっちり報告が出来ていても、

最終的にはややこしい事案は報告しないことがある

⇒つまり、結果として報告するかしないかは、メンバー側に判断基準がある。

 

基本的な共通概念(エピステーメー)が成り立たないと、 コミュニケーションは成立しない。

Ex)ならぬものは、ならぬ(人のものを盗む、嘘をつく)

Ex)なぜ人を殺してはいけないか

⇒組織では、共通のスタンダードを確立し、 

それを通じたコミュニケーションの維持が大切

その為には、「目的」の共有化が大切

☆つまり、あくまで社会構成主義的に対話が成立とする前提で、権威が成立することになります。

 

ここまでの前提から整理して考えると、

クライアントが組織に不満を持っている場合を改めて提示すると、

次のような組織的要因からの分類等が考えられます。(技術的要因)

A. 指示・要請がクライアントにとって、不当である

B. いわゆる「ほうれんそう」が、なんらかの理由で上司に出来ず、組織としての関係性が崩れかかっている

C. 組織参加への誘因が十分でなく、実際は組織に参加できていない。

D.組織への貢献を行ってはいるが、組織の全体ニーズを満たしていると感じられない。

E. 組織の「共通目的」が共有されていない、

F. 組織目的がクライアントの価値観からに受け入れ難い

 

 これらについて、クライアントへのどのような働きかけが適切か、組織への働きかけが必要なのかも判断して、キャリアコンサルタントは考動する必要があるように思います。

 組織において充分なマネジメントが行われていない場合は、クライアントに対する「ノーマライズ」や「コンプリメント」更には「コーピング・クエッション」が有効になります。また、原因が組織側のマネジメントの問題ですので、クライアントの問題の「外在化」を行うことが出来ます。(参考 ブリーフセラピーMRI/SFA

 

一方で、クライアントが組織に在籍している間は、その組織の安定性(有効性)が高い方が

いろいろな意味で、クライアントの満足につながります。

  

13.目的達成の為の権威の受容と、そのコミュケーション

 

■得意先・消費者を含めた非公式(Informal)な組織でも同様に、

上長は組織メンバーには受容される事が大切                      

■メンバーに対して、一方的に指示しても、

逆にメンバーに受容されない場合は指示内容が実現しないことが「権威の受容」という概念から起こるので注意。

 ⇒売上目標数等の目標の割り振りもメンバーとの大切なコミュニケーション、単に割り振るだけでは、駄目!

 

組織内におけるいわゆる指示に関するまとめ

1.目的に対して明確で、適切でないと駄目

 (メンバーとしっかり目的を共有していることが大切。

cf メンバーの社内昇格する手段として位置づけ。》)

2.理解されないと駄目(⇒目標数字の説明が出来ないと駄目)

3.物理的に実現可能でないと駄目

⇒目標を実現する為の活動詳細の提示は必須)

4.広い意味で受容できるものでないと駄目

 常に受け手(メンバーの)立場で考える。

=自分自身で代わりにやればその目標が実現出来るのかどうかを常に考えておく必要がある。

 

■権威の受容のベースとして 

組織内の非公式組織Informal Organization(飲み会等)での

非公式のやり取り(Informal Communication)が、共通概目的(概念)の成立に大きく影響します。

 

14.目的に対する組織の効率性(能率)と有効性

 

組織活動においては、組織の能率と有効性は別の結果をもたらします。 

能率(効率性) efficiency = プロセス重視 =手段重視(内部環境の調和

例)営業活動においての能率(KPI)

店舗をいかに効率よく回ったか

いかに店頭スペースを迅速に立ち上げたか?

POPをどれだけ全店で展開できたか

如何に細かく売上数字をメンバーに落とせたか

   ◇この能率を上げる為の前提条件として、バーナードは「経営者の役割」の中で、構成員の満足度を上げる事、

組織からの誘因の提供が大切であると説明をしています。

有効性 effectiveness ⇒ こちらの結果により組織(企業)は存続できる。=戦略重視      (外部環境との調和)                               

              例)営業活動における有効性
       訪問の結果どれだけ売上が実際に上がったか?

どれだけ消費者に製品の良さが伝えられたか

展開したPOPにより、どれだけ消費者の目がとまったか?
             
 結果として、商品の売上につながったか

示された予算数字が納得され、如何に現実の売上につながったか?

 

単に、能率のみを指示され求められて、結果として有効性があがらないことを責められるとメンバーは厳しい。

その意味では、能率を上げれば、有効性が確実の実現できるようなマネジメントが必要とされます。

この能率のことをKPI(Key Performance Indicator)といいます。

 結果的に有効性(KGI)があがらない能率の設定はKPIではありません。

              ⇒但し、行動においては、予期せぬ結果も同時に発生することもあります。

 

 ・組織の能率は高いが、有効性は低い組織行動があります

この場合、必然的に組織は衰退します

 

 Ex)アメリカの過去のNO1蒸気機関車会社

ディーゼル・ガソリンエンジンの時代になっても、それらに打ち勝つべく、効率的な蒸気機関を求め続けた。

しかし、それらの努力(能率)は、市場にとってはもはや有効的でなかった為、結果として倒産。

組織の定義・共通目的を蒸気機関会社でなく、

交通機関の開発会社とすれば生き残った可能性。

それほど、組織に取って目的は大切

(市場に対する有効性が組織の存続に取って大切になります。)

 

注)ここでは、「目的」を変更すれば、組織の「有効性」が高まり、企業の存続できると想定していますが、その為には蒸気機関開発の「有効性」の是非を組織内で認識をできる必要があります。しかしながら実際は組織内部においてその「有効性」を認識すること自体が難しい可能性も往々にしてあります。もし、組織内での「有効性」の認識自体が難しく出来ないとなると、組織として「有効性」(外部環境との調和)から外れてしまい、企業は衰退の道しか残らないことになります。そのような事態を避ける為にも、外部からの「組織開発」や「キャリアコンサルティング」が必要だとも言えます。

 

 

15.人の考動を変える。

 

16. 経営学と経済学は何が違うのか?

 

ManagementEconomy(倹約:神の摂理)

  

経済学では、参加者は市場において全知全能な(市場情報をすべて把握している)為に、

同じ品質を提供出来れば、企業間の優劣も原則つかない。

日本のビールメーカーの4社は品質ほぼ遜色なし。(一度、目隠しテストをやってみてください)

⇒すなわち、4社では25%が、経済学上の理論的シェア

 

現実は、各社のシェアが大きくばらついている(同じ社内の支店間でもばらつき)

⇒経済学では説明できない。

ちなみに経済学は常時均衡の概念であるので、均衡を外れるバブルや恐慌も説明できない。

恐慌は、共産主義の概念=市場の錯乱です。

 

では、シェアの違いは何によって生じるか?

経営(管理・マネジメント)の違いによって生じるのでは?

=これが、経営学のそもそもの考え方(数学的(本質的)な均衡を前提としない、構成的な考え方)

 

優位に立っている企業(支店・課)のマネジメントを分析すれば!

=自社も同様に優位に立てるはず

=経営学を実際の活動の中で押さえる意味(本来のMBA)

 

但し、結果として出てくる目的等は極めて普通であることに注意

(しかし、共通の目的意識がしっかりすると、有効性が増す)

Ex 〇〇県で受け入れられるPOPを展開しよう!

マネジメント(経営)を通して、

正しい目的とより良い結果の 実現を目指すことが大切。

 

17. 管理職能(マネジメント)=リーダー業務 

伝達系(Communication)を提供

協働意欲(motivation)を維持し

組織「目的(Purpose)

のたえざる保全を図る。

 18.悪しき?官僚主義の正体 (官僚主義は非効率・悪いものとの噂も絶えないですが・・・)

A.官僚主義とは何か

 ⇒大規模な組織において効率的に目的を達成する為にデザインされた組織体(組織社会における組織形態のスタンダード)

 

B.企業における官僚主義

 ⇒市場主義経済における大規模企業体制

   市場主義経済とは何か

   市場経済における官僚主義の成り立ち

③ 官僚主義の有益性・不利益性

 

 19.A.官僚主義とは何か

 自由主義経済・共産主義経済・犯罪組織であれ、

目的を達成する為に存在する比較的規模の大きな組織で成立する。

①どのような社会であれ、官僚主義の効用・負の側面が存在する。

②官庁・企業における官僚主義 ⇔ 「悪しき」官僚主義 (非効率・遅い判断・硬直性)

 ⇒官僚主義自体を否定するべきものでもない

 

20.B.自由主義経済の歴史

 

. 自由主義経済の変化
B. 資本主義の変化

C. 企業の成り立ちと変遷

D. 官僚制の機能

E. 官僚制の逆機能

F. 官僚制逆機能=悪しき「官僚主義」に対して

 

A.自由主義経済の変化 

宗教観が強かった初期アメリカで発展

ピューリタン革命・清教徒・メイフラワー号

自由と博愛の精神(キリスト教)の国家での実現⇒アメリカ

⇒公共の福祉の拡充

 アダムスミスの国富論 ⇔弱肉強食の非情主義か?

Invisible hand (見えざる手) 本の中で一度だけしか出てこない
                           
日本語訳 「神の手による調整」

アダム・スミスの前書 「道徳情操論」

実は、アダム・スミスは道徳哲学の教授

 

自由主義は宗教的倫理観の中で発展

神に認められる実感の為の勤労での成功

⇒Good Person  資本主義(市場主義経済)の成功の為には、実は、個人の倫理観が大切

 

★ 初期のピューリタンの信条
(初期アメリカ人)

節約 ・沈黙 ・規律 ・決断 ・節約 ・勤勉

誠実 ・正義 ・誠実 ・中庸 ・清潔 ・平静

純潔 ・謙譲

13の徳目(ベンジャミン・フランクリン) 勤勉に働き質素倹約に努める

「世俗内職業労働」「禁欲的生活」

現世で勤勉に働く事が修行→神への奉仕

⇒ビジネスでの成功が神による選ばれしものとしての確認

 

参考)『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』

社会学者 マックス・ヴェーバー 1905年

近代資本主義は、ただ合理的国家においてのみ育つのである。

それは、専門的官僚制と合理的法律を基礎として育つものである。」

 

B.資本主義の変化

その後もアメリカへの移民継続、違った価値観の人々の増加

   ⇒アメリカでの金ぴか時代
                                         
蓄財慈善活動

 

C.企業の成り立ちと目的 

1600年 東インド会社が会社の始まり

出資制

株式に見合った報酬

 ↓

認可制から、法管理の届出主義へ

そもそもは、

ダムや橋のなどの公共事業の為に、幅広く出資し、株式会社を設立 

本来、企業(株式会社)の存続は、社会に対する公共性が目的

上記により、株主権利の最重視は後付理論

バーリー・ドットの論争で既に解決済み

1930年~1950年)

 

D. 官僚制 bureaucracy

(事務机による支配)

 産業の発展による大規模組織の成立による

組織と管理の特徴(経営の職能化)

 官僚制の7つの特徴

1.明確な職務配分

2.ハイアラーキー(ヒエラルキー) 「階層組織」の原理

3.規則による管理

4.非人格性/非常性

5.専門的能力に基づく採用・昇進

6.組織の永続性/継続性

7.職務の標準化=規格化

高度の能率 但し、

職務遂行能力さえあれば、誰がやってもできる職務が原則

ex) メンバーの互換性)

 

E. 官僚制の逆機能現象

=悪しき「官僚主義」

 1. 訓練された無能

2. 職務が細分化された為、自分の組織以外や全体最適に対しては無能となること

3. 最低許容活動

報酬を得、罰を受けない為には、規則さえ守ればよいという考動

4. 目標置換

目標達成の為に規則遵守が目的化する

下位の部門目標がその組織の最大の目標となる

5. 個人の人間的成長の否定

人間は全人的成長を目指すが、組織では細分化された成果のみによって評価される為、

官僚制度のもとでは全人的成長が否定される

6. 革新の阻害

官僚制は高い能率を追及する為に、非定型的な意思決定と考動を禁止することから、

革新や組織メンバーの創造性の発揮が疎外されること

 ★上記の官僚制の逆機能に対して外部から組織介入をし、いかに逆機能をコントロールするかが、

組織開発やキャリアコンサルティングの目的のひとつであるとも言えます。

  

F.マネージメントの阻害要因
なぜ組織内に錯誤が発生するのか=悪しき官僚主義?

(ここまでのロジックより)

NHK 100de名著【ドラッカー(マネージメント)】によると 

 第5章 22

1.職務が狭くて成長できない (幅広く考えることを阻む)

2.責任がない補佐役は有害である 

(評論家が多くなり批判ばかりになる)

3.自ら現場で仕事をしないと堕落する。

4.会議や出張が多すぎる (会議は仕事でなく道具である)

5.仕事不足をポストで補う。

6.歴代の担当者が倒れる。

と、されています。(書籍での表現と同一ではありませんが)

 

【まとめ】

 組織開発において個人の支援を実践する場合も、クライアントから「仕事」や「職場」又は、「組織」の在り方、「上司への不満」「自己の職業や職場での適正評価」など、組織に関わる悩みが語られる事が多くあります。

 但し、ここまで見てきたように、組織社会が浸透し大規模化が図られてくる過程で、官僚組織が社会に浸透しその順機能を働かせる上で組織の逆機能に対する課題もどんどん大きくなってきていることがその原因となっていることもあります。

 そもそも官僚組織においては、上記のように個人は代替の効く、全人的な成長を促さない設計になっていますので、個人にとっての不満は発生しやすくなります。(cf.アージリス)多くの組織では、順機能を伸ばし逆機能を軽減するようなマネジメントが行われていますが、それでも個人のニーズと相いれない部分も多く残ってしまいます。また。この古くからの課題を改善するコンセプトとして、近年は「人的資本経営」ということも言われています。

 また、マネジメントでもなんでもない考動(経験による思い込み)をマネイジャーが単純に勘違いしてマネジメントと信じて行っている場合も、そもそもあり、これではメンバーが不満を抱いてしまうのも当然です。

 この点からキャリア面談におけるクライアント不満についても、それが個人の課題に起因するものなのか、取り巻く「組織」が持つ課題や上司のマネジメント自体に起因するのか等を判断して、キャリアコンサルティングと周囲への働きかけを進めてゆく必要があります。組織について「働きかける」場合においては、ここでの知識等を踏まえてキャリアコンサルタントが関与しないと、逆に組織を単に混乱させたり、クライアント自身にも不利益をもたらしてしまうリスクが大きくなってしまいます。

 それらに対処しようというスキームのひとつがが、「キャリアカウンセリング型組織開発®」になります。


参考)新訳 経営者の役割(The Functions of the Executive)

 C.I.バーナード著 山本安次郎・田杉競・飯野春樹 訳

 ダイアモンド社 1968年8月 発行