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エフェクチュエーション


市場のイノベーションに関する考え方に「エフェクエチュエーション」があります。

エフェクチュエーション《市場創造の実行理論》

サラス・サラスバシー 著 加護野忠雄 監訳 高瀬進/吉田満梨 訳

発行所 (株)碩学舎  発売元 (株)中央経済グループパブリッシング 

 以下、上記の書籍を読んで気になった部分を中心に簡単にご紹介したいと思います。 《 》筆者追記部分


 エフェクチュエーションとは、次のような要素から成り立つと推論されます。(定性分析より)

要素1 目的ではなく、手段からスタートする

要素2 期待利益ではなく、許容可能な損失《が重要》

要素3 最初の顧客がパートナーになり、パートナーが最初の顧客になる

要素3 競争を無視し、パートナシップを強調する

要素5 市場は見つけるものではなく、紡ぎだすものである

要素6 事前に選んだ目標ではなく、予想もしなかった結果《が成果につながる》

(P42~P48)

 

 エフェクエチュエーションとコーゼーション

エフェクエチュエーションと対比できるものとして、従来から行われているコーゼーションという考え方があります。

 

 エフェクチュエーションのモデルでは、意思決定者は可能な所与の手段を定義すること

(意思決定者が誰なのか、何を知っているのか、誰を知っているのか)からスタートし、

次に、偶発性を伴うやり方で幾つかの可能な結果から選択するのである。

また、継続的に新しい機会を紡ぎだし、かつ、それを有効に活用しようとするのである。

 エフェクチェーションが「目的主導型」や「資源依存的」というよりも、本質的に「経路依存的」であり、とりわけ「関与者依存的」であることを示している。

 

 コーゼーション(現在主流のマーケティングの教科書で教えられている)は、

「市場の定義

セグメンテーション (segmentation)

ターゲティング (targeting)

ポジショニング (positioning)

(STP)   」を重視する。      (P48~49)

 

 どこに、どのような価格で販売するか?

コーゼーションによる予測

ターゲットとなる市場セグメントを期待利益の大きさをもとに選択

セグメントに適したチャネルを選択すること

価格は最も期待利益が大きい価格帯が選ばれる

セグメントとターゲットに応じたチャネルが選択される

 

エフェクチュエーションによる予測

「最初の顧客」が許容可能な損失に基づいて発見される

それが市場セグメントの定義にまで一般化される

市場を見つけるのではなく、紡ぎだされれる

最初の選択が「セグメントの選択」ではなく、「パートナーの選択」になる

価格も「パートナーの選択」に依存し、最も安価なチャネルを使う

(P51~52)

 

 


第4章 エフェクチュエーションを理解する:問題空間と問題解決の原則

 行為に関するエフェクチュエーションとコーゼーションの違いは、、パッチワーク・キルトとジグソー・パズルのメタファー(隠喩)になぞらえることが出来る。

 実際の調査対象者となった企業家は、自身を明確なビジョンを持っている(visionaries)と見ているかどうかは別として、まるで(ジグソー・パズルの)絵が存在していて、それを組み合わせれば良いというふうに振る舞う事はしなかった。むしろ企業家は、まるでパッチワーク・キルトを作るように、老練なキルト職人のように物事を進めるのである。

 

4.1.3 エフェクチュエーションの問題空間における3つの要素

 次の3つの要素がエフェクエチュエーションの問題空間を構成している。

1.「Knightの不確実性(Knightian uncertainty)」 ━ 未来の結果に対して確立を計算することは不可能である

2.「目的の曖昧性(Goal ambiguity)」 ━ 選好は全く与えられていないか、順序だっていないかのどちらかである

3.「等方性(Isotropy)」 ━ どのような環境の要素に注目すべきか、何を無視すべきか不明瞭である

 

4.2.エフェクチュエーションの原則 ━ 行動の為の基準

 コーゼーションの問題は、「選択の問題」である。エフェクチュエーションの問題は、「デザインの問題」である。コーゼーションの論理は「選択」を助け、エフェクチュエーションの論理は「構築」を助ける。コーゼーションに戦略は、未来が予測可能で、目的が明確で、環境が我々の行為から独立している場合に有効である。エフェクチェーションに基づく戦略は、未来が予測不可能で、目的が不明瞭で、環境が人間の行為によって変化する場合に有効である。コーゼションに基づく行為者は、求める結果(effct)」からスタートし、「これを達成する為には何をすれば良いか」を問う。それに対して、エフェクチェーションに基づく行為者は、「手段(means)」からスタートし、「これらを使って何が出来るだろうか?」と問いかけ、再度、「これらの手段を使って、他に何ができるだろうか?」と問うのである。

 

4.2.1 「手中の鳥」の原則:手段からスタートし、新しい結果を創る

 エフェクエチュエーションの違いは、「問題のフレーム(the problem frame)」にある。つまり「特定の結果を生み出す為に、選択肢の中から手段を選ぶこと」に対して、「特定の手段を使って、可能な結果をデザインすること」という違いである

手段:私は誰であるか、何を知っているのか、誰を知っているのか

4.2.2 「許容可能な損失」の原則

 エフェクチュエーションは、その人が「いくらくらいまでなら損しても良いか」を決める事から始めて、しかる後に限られた手段を梯子として創造的に活用することで、新たな目標と新たな手段を作り出すことを重視する。

4.2.3 「クレイジーキルト」の原則

 「クレイジーキルトの原則(the crazy-quilt principle)」は、今後経営に関わるかもしれないし関わらないかも知れない潜在的な関与者について機会のコストを考えるのではなく、実際にコミットした関与者を考慮すべきだとする。

4.2.4 「レモネード」の法則

 エフェクチュエーションは、これと対称的に偶発性を活用しようとする。この原則は「酸っぱいレモンをつかまされたら、レモネードを創れ(When life gives you lemons, make lemonade)《レモンが回ってきたら、レモネードを作れ》」という格言に呼応する。

4.2.5 飛行機の中のパイロット」の原則

 エフェクチュエーションは、「予想できない未来の中のコントロール可能な側面に」に焦点を合わせる。この論理的前提は、未来が予測できる範囲では予測は不要だ(To the extent that we can control the future, we do not predict it)というものだ