景気と金利政策
(随時、加筆・修正中です)
このホームページでは、ブリーフセラピーを中心としたプラグマティズムと悪循環から脱却する為のダブルループ学習を基にした逆説的介入を考え方の基本として大切にしています。これを個人や組織の問題解決だけではなく、社会的な問題に応用してみるという視点から、現在に30年以上悪循環から脱却を出来ない日本の経済、特に景気と金利政策について考察をしてみました。
Ⅰ.景気と金利対策;日本の現状
(随時、加筆・修正中です)
日本は15年間以上も低(ゼロ)金利政策を続けているが、その政策効果の予想に反してまったく物価も上がらなければ、景気も一向に良くならないし、生活実感が良くなったとも感じられない。また、最終製品に関してはイノベーションも依然として沈滞したままのような状態が続いている。その間に1人当たりの実質賃金は、諸外国が3割~5割程度増加しているにも関わらず、ほぼ横ばい状態が続いている(’23年度は比較可能な90年以降で過去最低)。
その結果、世界有数の経済大国にも関わらず、長期デフレの影響が大きく世界的の物価水準から大きく乖離してしまい、昨今はその乖離を急速に埋めるべく、消費者物価の高騰が続いている。今(2024年)は、物価と賃金上昇の好循環などと言っているが、現実は内外価格差拡大を中心としたコストアップインフレである。(『日銀によると「悪い」インフレ』しかも、その実効的な対策は打たれていない。)
このホームページの基本であるプラグマティズムの視点で認知し、逆説的介入を検討してみると、2024年現在の状況では、金融を引き締めて高金利のアメリカの方が持続的に景気が良く、世界の趨勢に反して金融緩和として低金利を続けている日本の方が、景気が悪いように見える状況が続いています。加工食品の平均値上げ幅30%とかのニュースもあり、いい悪いは別にして十分にインフレ局面にはいりつつあるというのは、厳然たる事実であるように市民としては感じます。現状の株価市場での最高値の更新や不動産のバブル期以上の高騰、企業の円安効果による好業績、コストアップインフレを含めた消費者物価の高騰という側面や金利差による円安傾向が続いている状況をみれば、本来は日本でも金融引き締めがとうに必要なように感じられます。プラグマティズムの視点では、ゼロ金利政策に効果があるとは言えない以上、発想の転換が必要に思われます。
2024年6月5日付の読売新聞の地球を読むでも「金利ある経済」として、失われた利子収入600兆円 との表題の下、1993年から2022年までの30年間で植田総裁が「逸失金利収入」は600兆円に上ると説明しているとある。家計が360兆円、法人が240兆円とある。この失われた600兆円は主たる借り手である不動産業などの法人、とりわけ中小企業と国だとしている。特にわが国ではゼロ金利の下でコロナ対策後の財政規律が失われたとされ、日銀の当面利上げしないというメッセージは円安を継続させ、円安は輸入物価を上昇を招いてインフレを長引かせ、折角の賃上げ効果を打ち消してしまうと指摘されている。
(参考;23年度公的年金の運用益最高額45兆円)
これは個人の年金にも大きく影響をしていて、手元に届いた「ねんきん定期便」に記載されている今まで払った保険料の金額に企業負担分を合わせて2倍にし、それを年金見込み額で割ってみると、65歳開始であれ、繰り下げ受給であれ、自分と企業が支払ってきた保険料がまったくの無利子で平均寿命の年齢まで分割して支払われるという計算になってしまっています。また、その金額はゆとりのある生活を充実して営めるには十分と言い難い金額です。金利が3%程度維持されていれば年金資産も倍になっているはずで、若い人たちが今ほど将来の年金の為に今の消費を犠牲にし、せっせと貯蓄に励むことも今ほどはなかったでしょう。他方、株価が8000円の底値から現在は5支払った倍の4万円近くになっていて、私的に運用している資産がそれなりに運用益が増えていることを考えると、支払われた年金額が30年もかけて同額払い戻されるという仕組みはなかな納得しがたいものがあります。
いつの頃か年金は世代間扶養等と勝手言われているが、個人とその個人に関連して企業が支払った資産がその個人に戻らないというのであれば、日本が自由市場主義経済体制ではないとも言える状況になります。つまり、自由主義ではないとも言えます。これは困った状況です。自由主義経済体制では個人の資産は社会的に侵害されてはならないという原則に戻る必要があった言えます。年金制度は、やはりそれぞれ個人が自分の将来の為に貯めて使うべきものであると言えます。団塊の世代とその下の世代は、基本的にはその若かりし頃、闘争と銘打って「労働者の権利確保」や「既得権益の打破」の実現を主張し、その当時の年長者らに反発をしてきたこれまでの経緯もありますので、団塊世代含む高齢者が老害として労働者から搾取し既得権益として貪ることのないような国の制度設計が望まれます。また、現状負担する側の余力(国の収入)を持って、高齢者の福祉(国の支出)は決めるのが財政政策ではないでしょうか?
話が少しそれましたが、年金制度を含めて、日本が長年に渡ってこのようなひどい状態にありながらも、現在の日銀総裁は円安は物価に影響が少ないとか、物価が事実上急騰しているにも関わらず2%の物価目標が実際は達成出来ていないだとか、マスコミも含めて金利を上げると、国債の金利負担(インフレで純負債額がめべりする考慮もない)や住宅ローンの金利があがる弊害(減税措置で当面の負担がないことや資産価値上昇分の考慮がない)があるとか、依然として現実の実態に対しては何か少し的を外れたような言説が社会全体で続いています。
これらは、「金利を下げると景気が良くなる」との経済理論上の単純な思い込み(悪循環)が原因ではないかと考えられます。つまり、現実の日本の長期のゼロ金利政策における実態を見れば「金利を下げても景気は良くならない。」、直近のアメリカの実態を見れば「金利を上げても、景気が悪くならない」という現実と経済理論が大きく乖離していると捉えることも適切ではないかと感じます。
一番の考えられる原因は、需要と供給は一致するという新古典派経済学を前提としている点と供給サイドだけが考慮されている点ではないかとも推察できます。しかも、日本の数々の政策が上記の年金制度のように、自由市場経済主義に立脚しながらその価値観に基づいていないという不思議な現象もあります。つまり、市場を重視している新古典派経済学に準拠するのであれば、物価の大幅上昇や円安という形で市場からの細則に素直に従うのが必然ですが、今の日銀の政策は市場を軽視し、市場を恣意的にコントロールするような管理社会体制のロジックになっているようにも思われます。
この原因はもう指摘されて50年以上にもなりますが、現実の世界を前提としていない経済理論を形式上で踏まえて、未だ政策が考えられているのではないか、生産部門のみ重視の金利政策はもはや限界ではないのかという点にあります。これはこのホームページでも指摘しているように、新古典派経済学の市場の仕組みの前提が崩れていると指摘されているにも関わらず、その事実が無視され続けて議論をされ続けていることにあるように感じます。これらの点について、個人的に少し考えてみたいと思います。
結局のところ、この長期間続く日本の経済的不振のその原因は、30年もの間、経済政策の基本の考え方(経済理論)がほとんど変わらないことにある訳ですが、何処かに現状の実態に応じたしっかりとした経済論文があるのかも知れませんが、ここでは今起こっている現実を正しいものと仮定して、一度、個人的なプラグマティズムの観点から状況の整理を試みています。
Ⅱ.景気が悪いと金利を下げる理由とその前提 (経済理論の確認)
景気と金利の関係を日銀のホームページの解説を引用してみましょう。
「日本銀行は、わが国の中央銀行として、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資するため、通貨および金融の調節を行うこととされています(日本銀行法第1条、第2条)。調節にあたっては、公開市場操作(オペレーション)などの手段を用いて、金利の誘導等を行っています。
こうした中央銀行が行う通貨および金融の調節を「金融政策」といいます。」
「一般に、金融政策による、(実質)金利の低下・上昇が経済活動に与える影響は、以下のように考えられています。
金利が下がると、金融機関は、低い金利で資金を調達できるので、企業や個人への貸出においても、金利を引き下げることができるようになります。また、金融市場は互いに連動していますから、金融機関の貸出金利だけでなく、企業が社債発行などの形で市場から直接資金調達をする際の金利も低下します。
そうすると、企業は、運転資金(従業員への給料の支払いや仕入れなどに必要なお金)や設備資金(工場や店舗建設など設備投資に必要なお金)を調達し易くなります。また、個人も、例えば住宅の購入のための資金を借り易くなります。
こうして、経済活動がより活発となり、それが景気を上向かせる方向に作用します。また、これに伴って、物価に押し上げ圧力が働きます。
このように、景気を上向かせるために行われる金融政策は、金融緩和政策と呼ばれます。
一方、金利が上昇すると、金融機関は、以前より高い金利で資金調達しなければならず、企業や個人への貸出においても、金利を引き上げるようになります。
そうすると、企業や個人は、資金を借りにくくなり、経済活動が抑制されて、景気の過熱が抑えられることになります。また、これに伴って、物価に押し下げ圧力が働くことになります。
このように、景気の過熱を抑えるために行われる金融政策は、金融引締め政策と呼ばれます。」
とありますが、現実的には企業は消費者の需要がなければ、運転資金を増やすことも設備投資を増やすことはありません。もちろん景気回復予測という思い込みによってB to Bの投資が一時的に増えるかも知れませんが、最終的には個々の消費者の収入が増え、需要(購買余力)が確立しないと、運転資金や設備投資に向かう資金は行き場を失ってしまいます。特に、物価高や増税・社会保障費の増大が一方であると、消費者の需要に必要な資金はそちらに取られてしまうので、現在の日本のように個人消費が増えることはより難しくなります。
逆に、金融引き締めで金利があがり、物価があがった結果で株価が上昇する場合でも、個人の資金(購買余力)に金利と株高(将来の見込み利益増)はプラスに働くので、個人の消費が増え、景気が維持される可能性があります。
また、野村證券のホームページでは、金利と物価について以下のように解説をされています。
「金利の動きと物価には密接な関係がある。一般的には、物価が上昇すると、金利の上昇要因になると考えられる。
例えば、好景気になると消費や設備投資が活発になる。消費が増えるということは、モノやサービスの買い手が多くなるということなので、需要と供給の関係から、物価(モノやサービス価格を総合したもの)は上昇する。物価上昇の傾向が強くなると人々は少しでも安い値段で早くモノを買おうとするので、お金が使われる。金融機関はお金の流出を防ぐために、より有利な高い金利を預金者に提示する。その結果、金利が上昇する(1973~74年、1979~80年当時の石油危機時代の物価急騰・金利急騰が代表的な例である)。
また、物価は預金者が手にする金利にも影響を与える。例えば、A銀行で100万円を年利1%で預金したとすると、税金などを考慮しなければ、1年後の受け取り金額は101万円になる。一方で、同じ1年の間に物価が2%上昇したとすると、100万円だったモノの値段が102万円になり、同じモノを買おうとしても1万円足りなくなる。このように、物価が上昇するということは、相対的にモノの価値が上がり、それだけお金の価値が減ることになる。
反対に、物価が下落すると金利の低下要因となり、モノやサービスの値段が下がることでお金の価値が上がると考えられる。」
とありますが、現在の日本では消費者が貯蓄を取り崩してまで、消費を行う余力がないことで、市場金利が上がっていないことが推測されます。また、金利が上がらないので、今後の貯蓄の名目価値の上昇が期待できず、貯蓄を取り崩しての消費が出来ない状態と言えるかも知れません。また、好景気で個人の消費が増える状況というのは一人当たりの実質賃金が増加する必要がありますが、冒頭に示したように、諸外国が増加する中で日本だけが横ばいでが続く状況では、対外的な購買力の視点でも凋落し、現在のように消費が増える局面とはなりません。
以下は、なぜこのようなことになっているのかを簡単なモデルを使って考察をしてみたいと思います。
1.経済人(利己的個人的利益を最大化・無限の消費欲求) X国モデル
これが現在の経済理論のもとになっている仮想の市場モデルです。
100人の経済人モデル;
それぞれが生産と消費を行い、ごく近くに居住しお互いの行動が相互に認識できる:モデル
商品が供給されると、消費者は借金をしてでも購入する。あくなき消費欲望が前提となっている。
・金利も基本的には市場に委ねられている。物価が上昇すると、先高期待感から金利が上昇し、投資が減る景気が下がり、物価が沈静化する。(金利が上昇すると、コストアップから物価が更に上昇するが、需要が減り市場が沈静化する。生活必需品や食料のような必ず購入するという概念は存在しない。)
現在の景気対策もこの原則で行われている。(物価が上がると、金利を上げる)
・市場価格は無数の企業間の市場競争によって決定される。
・価格は市場によって決定され、優越的な地位にあるバイヤーや購買係は存在しない。(大企業は存在しない。)
・市場均衡の原則により、貯蓄に回す様な余剰は発生しない。(皆貧乏な理論)
・消費は、経済人の無限の欲望に依存する(足ることを知らない)。
経済人モデルの前提
需要と供給の関係により最適に市場価格が形成される
⇒需要は無限に大きくなる(他の要素と独立した関数として)
⇒個人の資産は侵害されない。 = 国が統制をしない。
⇒実需によって決定される = その時点で使用可利用可能な金銭の範囲で考動する。
⇒小さな政府 = 社会保障(年金・医療費・社会福祉)は個人や民間に委ねる。
⇔国が統制を行ったり、特定の個人層に損害を与えないのが原則。
どちらかというと企業家の行動を分析
このモデルの良い所は、参加者が常に競争にさらされている為、参加者全員が少なからずマーケティングやイノベーションに関与をしている点である。
経済人モデル(X国)における景気と金利の関係の考え方
1.経済理論における景気と金利の関係
景気過熱(物価上昇)時
→ 金利を上げる 資金を借りにくく
➔投資が減る、商品が増えない、物価が上がる、需要が減る➔景気鎮静化(古典的供給モデル)
➔ローンがしづらくなる➔消費が減る➔景気鎮静化(古典的需要モデル)➔物価が下がる
2.景気後退(物価鎮静)時
→ 金利を下げる 資金が借りやすく
➔投資が増える、商品が増える=需要が増える➔景気の活性化(古典的供給モデル)
➔ローンがしやすくなる➔消費が増える➔景気活性化(古典的需要モデル)➔物価が上がる
以上のように、新古典派経済学は、根拠として自由競争市場機能を前提としているが、
それは現代組織社会ではすでにどこにも存在しない。
市場主義経済で均衡が達成された状態は個人個人が裕福な理想社会を作り出すものではないという理解が大切になります。
その調和された世界は最低限のコスト(最低限の賃金)で人が働くという厳しい世界の実現となります。
その市場均衡を打ち破り、社会を豊かにする為の存在として企業があります。企業は合理的な貧困を目指す存在ではなく。
ドラッカーが指摘するように。企業の社会的責任として、マーケティングとイノベーションにより、組織は社会での余剰を確保し、社会全体を豊かにするという責務を負っています。
Ⅲ.景気と金利の複雑人モデルの検討
そこで少し現実に即したモデルで、どのような社会機能が市場に変わって行われているのかを検討してみます。
X国では貯蓄は投資に回るとされているが、以下のA国、J国では貯蓄がどのように運用されているかはとりあえずはさておき、個人や企業の持つ金融資産の影響が消費に大きく影響をしているのではないかという視点と特定の社会機能が市場の調整の妨げになっているのではないかという視点で考えてみます。
2.複雑人モデル A国
トータル100人 複雑人(最低限の社会的モラルを有する)で構成される。
官僚(経済人1名);貯蓄100 株式200
中央銀行総裁(経済人1名)
企業経営者 2名 貯蓄100 株式100(2社)
バイヤー 2名 貯蓄50 株式30(それぞれに一名)
;極力安く購入し、より安く販売し、自社の売上を伸ばす社会的使命感
営業 2名(それぞれに1名)
正社員 60名:貯蓄10 株式10(それぞれの上記の2社とは別の会社(下請け・取引業者に所属)
オーガニゼーションマン
契約社員・パート 32名(但し、J国とは違い基本的に直接雇用)
現代のモデルであるA国では、経済学が想定している様な均一な市場ではない。
・金利は市場ではなく、中央銀行総裁に委ねられている。つまり、意図的な市場操作が政策として行われている。
よって、古典的経済理論が適用できないが、基本的には、市場からの催促にそのまま対応している。
・ここではモデルとして、2社としているが、市場価格は有力な企業によって決定されている。
・2社に供給される商品も、バイヤー・購買の仕事として、極力その価格を恣意的に下げる方向に働いている。
・営業活動としては、互いに他社より安く納入することを使命とする。(イノベーションがない場合)
商品の価格を下げたからと言って、もはや需要が増え、市場が拡大するわけではない。
・A国では貯蓄より投資が好まれているが、それでも金利や株価の上昇は消費に良い方向に働く。
・市場は複雑人全体の所得の伸びに依存する。無限の欲望に依存するわけではない。
以上のように、A国では新古典派経済学が根拠とするような市場は機能をしていない。
3.複雑人モデル J国
トータル 100人 基本的に経営人(最低限の社会的モラルを有する)で構成される。
官僚(経済人1名);貯蓄100 株式100
中央銀行総裁(経済人1名)
企業経営者 2名 貯蓄100 株式200(2社)
バイヤー 2名 貯蓄50 株式30(それぞれに一名)
;極力安く購入し、より安く販売し、自社の売上を伸ばす社会的使命感
営業 2名(それぞれに1名)
派遣会社 2名(2社)
非正規社員 30名;貯蓄0 官僚により経済の自由化のもと約20年前より3割増加
正社員 60名:貯蓄10 株式10(それぞれの上記の2社とは別の会社(下請け・取引業者に所属)(正規労働者は約20年間で約7%増加)
オーガニゼーションマン
(’23年 日本の労働者6,925万人・非正規労働者2,124万人(’05年1,634万人)・派遣社員957万人
キャベツ等の野菜は取れすぎるとトラクターで踏みつぶす、市場経済が機能せず、
基本的に価格決定権は生産者(又はバイヤー)のコントロール下にある。
現代のモデルである一方のJ国でも、経済学が想定しているような均一な市場ではない。
どちらかというと企業よりの政策判断
消費の源泉である消費者視点の金融政策判断が少ない。
・金利は市場ではなく、中央銀行総裁と官僚(市場介入)に委ねられている。つまり、意図的な市場操作が政策として行われている。よって、古典的経済理論が適用できないが、恣意的なロジックに拠って市場からの催促と逆の政策をも取る。
・ここではモデルとして、2社にしているが、市場価格は有力な企業によって決定されている。
・2社に供給される商品も、バイヤー・購買の仕事として、極力その価格を恣意的に下げる方向に働いている。
・営業活動としては、互いに他社より安く納入することを使命とする。(イノベーションがない場合)
商品の価格を下げたからと言って、もはや需要が増え、市場が拡大するわけではない。
・J国では貯蓄志向が高く、金利の上昇が株価の上昇とともに、より消費に向けて良い方向に働く可能性がある。
(2023年度 日本の個人の金融資産2121兆円(現預金1113兆円(国債残高は1286兆円))
・市場は複雑人全体(特に富裕層以外)の所得の伸びに依存する。需要は無限の欲望に依存するわけではない。
A国の特徴に加えて、派遣社員が社会的に幅広く認められている。
・派遣会社は企業により安い賃金で人を供給することを目的とし、賃金を下げる方向で働いている。
人材不足や物価高とは関係なく、賃金水準恣意的に低くなる力が働いて決定される、つまり、労働市場が機能していない。これに影響を受けて、同様な業務を行ういわゆる正社員も賃金の下降圧力を強く受け続ける。
役員報酬でさえもこの影響を受け、J国人トップの報酬より外国人役員の報酬が高くなってしまっている。
このモデルの特徴は構成員が必ずしも競争に晒されていない為に、いくぶん安定的な面である。常に何かの管理下におかれている。逆に、その為に、マーケティングやイノベーションは特定の人が行うとの気持ちが強くなり、状況が悪くなっても、国が、政治家が、官僚が、リーダーが、企業トップが、マスコミが、と自分以外の誰かが何かをしてくれるだろう、何かをすべきだという気持ちが強くなり、X国モデルのように参加者全員が自分自身がしなければというような考え方になりにくい点である。
以上のように、J国ではA国以上に、新古典派経済学が根拠とするような市場はシステムが機能をしていない。
4.複雑人モデルにおける消費税増税と金利政策
消費税を2%上げるなら、少なくとも出来れば金利を同時に2%を上げなければならない。逆に景気刺激策として金利を下げると、消費者は増税分と金利減少分のダブルの所得減に直面し、増税効果より大きな消費の減退をもたらし、景気の減退が加速します。
経済学は生産者の理論が中心で、社会を構成する消費者の視点が欠落しがちな為、増税や社会保障の負担増も含めて、国民の所得が増えないような政策を続け、結果として国内需要が増えない為により産業が疲弊することになってしまっています。
財政投資の現実的効果
J国 現在消費税は10% 財政投資は10回転で効果がなくなる
①部品の購入、②製造ユニットの納入、③完成品の販売、④流通への販売、⑤消費者への販売
上記のそれぞれの余剰分で消費税が発生、かつ、各収入が他製品に10回振り替えられると、投資効果はほぼ0となる。
X国 消費税は0% 財政投資はある意味無限に回転し続けて投資効果が持続する。
5.金利と株価・貯蓄運用益
金利が上昇すれば、株価には短期的にはマイナスに作用するが、金利が3%であればその費用を前提に投資をするので、
金利分は価格に転嫁され物価は上昇する。(日本の高度成長期も金利が実質的に原価に含まれていた。)物価上昇自体は株価に対してプラスに影響するので、結局金利以上に株価は上がる。また、金利0%だと、投資先での利益率も低くなるが、金利が3%だとそれ以上の効率が投資に求められるので、より良い投資先が先行され、経済基盤の強化につながる。
金利が仮に3%を維持されていれば、名目資産は30年間で約2倍になり、老後の蓄えや年金のレベルも今のようなひどい状態にはならなかった可能性がある。また、若年層を含めた将来不安が軽減され、より積極的な消費に向かっていたとも考えられる。また、先にあげた年金の運用益も、四分の一を占める国内債券にも毎年3%の金利がついていれば、より確実に運用益があがり、年金財政がもっと安定した状態で運営が出来る。
Ⅳ.景気と金利の複雑人モデルの検討
ここで経済対策として、X国のような自由市場経済を前提とした理論である「景気が悪いと低金利を維持する。景気が上向き、インフレ率が高いと金利を上げる」を複雑人モデル市場に採用すると、現代国家であるA国とJ国では別のロジックが動き出すことを考えてみる。
景気過熱傾向時 → 金利を上げる(A国;イノベーションがあり、比較的早くに景気後退から立ち直り)
景気後退維持時 → 金利を下げる(J国;バブルの崩壊・デフレの長期継続・派遣会社による賃金抑制効果が大きい)
以上を踏まえて、モデル分析を考えてみることにします。
景気過熱時 → 金利を上げる 資金を借りにくく、⇒財政支出減⇒増税せず⇒消費の安定と物価上昇(現代需要モデル)
⇒金利が増える、価格に転嫁する、物価があがる、売上が増える、株価が上がる、消費が増える(現代供給モデル)
⇒利子所得増、商品を買う、物価があがる、金利が上がる、株価もあがる、消費が増える(現代需要モデル)
景気後退時 → 金利を下げる 資金が借りやすく ⇒財政支出増
⇒増税(将来負担増)⇒消費減退⇒景気低迷(現代需要モデル)
⇒利子所得減、消費が減る、価格が下がる、売上が減る、給与が減る、消費が減る⇒景気低迷(現代需要モデル)
⇒資金が借りやすくなる ⇔ 設備投資に見合う需要がない ⇒ 資金は内部留保へ ⇒自社株買い ⇒株高☆
⇒需要が低迷⇒設備投資減⇒給与減⇒消費低迷⇒景気低迷(現代供給モデル)
☆⇒ 余剰資金の発生 ⇒ 株価と土地の高騰 ⇒ 富の偏在 ⇒ 消費の二極化
⇒ 一般商品の需要減 ⇒ 景気低迷(現代需要供給モデル)
つまり、金利政策において景気の良しあしを恣意的に判断をするのではなく、現在では物価や為替等の市場からの催促に応じた金利政策を確実に取るのが一番効果的で望ましいと言えます。(そもそも、これは自由市場経済主義の原則ですが。)
現代の複雑人モデルを基礎とした市場モデルでは、アメリカや日本で見られる様な金利と景気の傾向が見られます。
特に日本では物価高騰に見合った金利が市場からの催促に応じて構成されていないので、円安となり、更に物価が高騰し、
また、円安の持続効果により、国の資産の減少、国民の貧困、景気の後退という悪循環が続くこととなっています。
(複雑人は、エドガー・シャインによる概念です。)
このブログの内容に関係する記事として。2024年7月20日付けの読売新聞では「トランプ政策 ちぐはぐ 「インフレ回避」に減税利下げ?」という内容が掲載されています。この時点では「ほぼトラ」の流れの中、トランプ大統領候補が主張する政策が矛盾をしているという内容の記事です。「トランプ氏が掲げる金利の引き下げは本来、家計や企業がお金を借りやすくなり、消費や投資を刺激するものだ。インフレの鎮静化を見極める事なく、金利を引き下げれば、再び経済が過熱し、物価上昇が再燃する可能性が高い。」と、ここでのX国(経済人社会)を前提として主張がされています。「インフレ懸念が高まれば、長期金利が上昇し、回避したはずの円安・ドル高を加速させることにもなりかねない。」とも主張されています。
ここでのA国(複雑人社会)モデルでは、トランプ氏の政策の結果は、「金利を引き下げることにより、金利分の消費が減少し、物価は下がる方向に働く、基本的にデフレ傾向が強まる。但し、資金の流入による普段の生活と関係がない不動産価格と株高の傾向とはなる。株高による高級品消費は活況となる。自国防衛の為の関税率の引き上げは、国内消費への影響は限定的。但し、製造に必要な部品コストが上昇する為に、国内工業製品や輸出品の価格が上昇し、当初の目標はそれほど果たされない。」
J国(複雑人社会)モデルでは、「為替については、米国の金利引き下げによる金利差縮小と、ドル安への政策的誘導に市場が反応し、円高ドル安基調となる。エネルギー価格も米国の原油増産によるインフレ圧力の低下に伴い、国内の物価は下降傾向となる。日銀はインフレ率が2%を割り込むことを理由に、金利を更にあげず、この失われた30年の状態がまだ続いてしまう。その結果、日本の競争力低下の大きな流れは是正がされない。株価については、基本的には、米国の株価との比較割安感と例えば1ドル=160円から仮に1ドル=80円の円高が実現すれば、日本株はドル建てで倍になって帰ってくることになるので、海外からの買いが入る為に上昇基調を維持するでしょう。不動産価格も同様に引き続き上昇基調なりますが、株と違って一般の日本人が買えない価格まで不動産価格が更に上昇すれば、住宅費の負担が大きくなり、結果的に国内消費を抑え込む要因となるでしょう。物価下降局面でも賃金が増えるようなイノベーションがそれぞれの企業で実現出来なければ、国内消費が増加する流れとはならないので、現状と同じく景気拡大には向かわないでしょう。特に、企業のイノベーション動向を無視した最低賃金のむやみな引上げは、インフレ圧力となり、消費に対するマイナス要因となります。市場の賃金調整による弱小企業の淘汰は仕方がありませんが、政府が介入する最低賃金の上昇政策は社会主義政策ですので、より日本の活力を奪うでしょう。(最低賃金の低さの議論に、各国の物価レベルが考慮されず、単に高い安いとマスコミで報道されることは違和感を感じます)。」
以上が私的な予想ですが、その結果は1年後には明らかになっています。新聞に書かれているような経済理論が有効かどうかの壮大な実験とも言えます。個人的には、日本の金利についてはこのような結果とならず、この30年の惨状を踏まえ、日銀は少なくとも金利3%を軸とする政策運営へと、アメリカの金利動向を伺う消極的な姿勢から移って欲しいものです。
上記のモデル分析の為に、需要供給モデルの従来の考え方と現代の価格が下がっても総需要は一定での検討をしたいと思っていますが、少し時間が出来てから後日に追記をする予定です。
【2024年8月追記】
日銀による金利0.25%引き上げ
日銀はやっと0.25%に金利をあげることを決定。市中銀行の金利も上がった(これでは理論にあるような市場の情勢から市中金利が決まっている訳ではありません。)そして株価が下がり、15円前後の円高傾向となった。
その後、株価は1日で4,451円下げ、翌日は3,217円上げた。史上最大の乱高下とマスコミは騒いでいるが、35,000円前後で株価が動くのと、過去の15,000円レベルでの変動を比較すれば、史上最大となるのは当然だがその基本的な点はあまり強調されない。
円ドル為替レートは、161円から140円台へと予定通り円高に変動。外国人や一部富裕層が所持している株価が下がり、一般の市民の生活に影響する物価が下がる円高の方向性は喜ぶべきこと。一般消費者の消費も拡大し、実需が増えて景気的にもプラスに作用するはずである。老年層に偏っている富をこの効果で再分配する意味でも良い政策だし、また、消費が増えればいずれ下がった株価も回復が見込めるはずである。マスコミでの少数意見として、テレビ東京の経済ニュースの解説者は当面は利上げを進めるべきと解説していたが、その番組のキャスターも含めてそのようなマスコミでの言説は少ない。金利が下がれば長期的に景気がよくなるという思い込み(ディスコース)に幅広く支配されているようである。
長期投資のNISAへの悪影響の言説も強いが、長期投資なので直近の株価が下がれば、長期的な積立には有利なはずだが、この点にもあまり大きくは伝えられない。
確かに株価の最高値からの下落はなけなし資産が減ってしまった側面もありますが、これらは資産運用でありすぐに使う資産でもないので、実質の消費影響はほぼ0である。逆に全体の物価が下がって、急騰した昼のランチ代が少しでも下がってくれること、なおかつ預金に少しでも金利がついてくれば、市民の直近の生活は大助かりになり、結果として消費拡大につながるはずである。
夏休みで欧州へ海外旅行に出かけている人は、食事代を浮かす為日本食を持参している人もいるという。今、昭和がもてはやされているが、昭和の海外旅行や出張もこんな感じであったことを思い出した。内外価格差も大きく今後もインフレ圧力が続くことを考慮すれば、日銀はされに金利を上げ、円高水準に持ってゆくことがその圧力緩和には効果的であるが、マスコミを中心とする言説の圧力を脱することが出来るかがポイントである。そうしている間にも、日銀副総裁は乱高下するあいだは、当面利上げしないとのコメントを出した。
やはり、J国モデルと同様で、以下のように言えるかも知れない。
どちらかというと企業よりの政策判断(株価重視)
消費の源泉である消費者視点の金融政策判断が少ない。(消費者物価の実態軽視)
労働市場の活性化について
労働市場の活性化の為に企業に金銭的解雇権をもっと認めるべきだとの意見があります。プロ野球を例に出し、自由化されたFA制度や大リーグの移籍権という自由化によって年棒が上昇したのだから、労働市場も企業に金銭的解雇権を認めれば賃金はあがるだろうとの論法等もあります。但し、プロ野球選手は社会で言えばトップエグゼクティブ、草野球選手の年棒までも上がった実績がなければ、市民の賃金があがるという論証にはなりません。
現在でも従業員は退職することの自由を認められていますので、労働市場の活性化の面において企業の解雇権の拡大は特に必要ないようにも思います。企業にぶら下がっている余剰人員の問題は市場ではなく、このホームページで示しているようにマネジメントに任せるべき問題だと言えます。
ここで述べているように、是非はともかく、自由市場競争の結果はミニマムコストの実現ですので、自由に競争を行なえば個々の所得が結果として上がる等というような市場理論はないことを理解することがまずいずれにしろ大切に思われます。
【2024年10月追記】
金利と消費税
今月は衆院選の投開票が27日となり、選挙戦となっている。その中で最低賃金1,500円の早期実現ということ多くの党が訴えています。これはここで述べているように自由市場主義経済とは相反するものですが、自民党までが公約として掲げています。
イノベーションを実現した企業が賃金を多く支払って賃金を上げてゆけば良く、人材が労働市場を通じてそちらに移行することによって賃金は上昇することが出来ます。払えない企業にまで急激な賃上げを課することは、社会に必要な企業まで淘汰することにあまり思いが各政党は思いが至っていないようだ。日本はあくまで自由主義陣営なのである。
最低賃金の目安としては、最低賃金で働けば、最低限の生活保障額を得られるレベルですが、それは現在の最低賃金でほぼ実現しています。最低賃金はあくまで最低賃金であって、市場賃金はそれよりも高くなるような政策が必要に思われます。
また、ここでは世界をプラグマティズム的視点から観て、日本の金利を早期に3%程度に戻すべきだと考えているが、日銀などは金利上昇による企業負担の視点から消極的な印象を受けます。金利をあげれば、株式市場は高速システム売買の影響で一旦は急落しますが、翌日はシステム的に戻すようにも観られますし、下記のようにインフレ傾向になると、株価も物価と連動しますので結果的には上昇に転ずると予想されます。
選挙の公約に話を戻すと消費税の減税を訴える党も多い状況です、消費税なので消費者視点の政策になっていますが、消費税は企業も等しく現在10%を負担しています。その為に消費税が3%減税されると仕入れ売上での3%の企業負担がなくなり、企業の利益は単純に中小を問わずに3%増益となる。この分を金利上昇分2~3%と相殺することが出来れば(内税の価格の場合で価格を変更しない場合、または、仕入れコストと企業の余剰分に消費税がかかりますので、一定の効果が見込まれると推定しています。)、企業の負担少なく、政策金利を上げる事が実現出来ることになります。
金利を上げれば、繰り返しになりますが、企業の内部留保・個人の金融資産・個人の年金資産に金利が付き、その分を投資や消費に回すことが出来ます。また、金利上昇分はコストアップインフレ要因となるので、持続的インフレも続くと考えられます。その為、政府の減税分は投資や消費の累積増加効果による増収と国際債務のインフレによる相対的な実質金額の減額となり、結果的に政府の運営も好循環となると考えている。
もちろん、社会保障費は「入りを量り、出ずるを制す」の原則に戻り、現役世代の負担できる範囲内で運営する必要があります。少し厳しいですが、現在の日本の社会の現状を創ったのは現在の高齢者であり、相応の自己責任が求めれれると考えることが出来ます。