いろいろな支援を行う中で傾聴は大切です。一般的な理解としては、ロジャーズの提示した要件として「受容」「共感」「一致」とされています。
但し、「傾聴」していればクライアントが自律的に改善に向かってゆくと信じているキャリアカウンセラーもおられますが、少なくとも「リフレクション」は必要だと考えています。ロジャーズの「リフレクション」をする為にはバックボーンとしての専門性が有効ですが、そのような理解をあまりされていない場合も多いようです。
このような専門知識の特にない場合、クライアントが「人材育成」がわからないと相談に来ている場合でも、「傾聴」をしながらもカウンセラー側に「人材育成」の具体的なイメージがない(受容出来ていない)為に、ある程度のやり取りの後で「人材開発について何かこうすれば良いと思い当たることはありますか?」(技術的課題)と応答されてしまうことも多くあります。コンサルタントがクライアントに気づきと自己概念の成長を促したいのだと思います。しかし、現実的に考えれば、相談者が「人材育成がわからない」とわざわざ相談に来ているのに、コンサルタントよりそんな風に「人材育成とは?どうすれば?」と、逆に尋ねられるような応答をされてしまうと、相談者は「なんだかなぁ?」となってしまうのではないでしょうか。
「傾聴」の条件は「受容」ですから、「人材育成がわからないと相談に来ている相談者」を受容する必要があります。その点を「受容」してれば上記のような逆質問の「投げかけ」は出にくいのではないでしょうか。「受容」としながらもカウンセラー側の「一致」が不十分なのかも知れません。
クライアントの自己概念の変化を目指す場合は、「人材開発がわからないと決めつけてしまっている相談者の認知」にアプローチする必要があります(適応課題)。この場合はもう少し遠回りに質問をした方が良いのかも知れません。その点からコンサルタントは事前に「人材開発」(技術的課題)について調べておいて、専門家として対応できる事が有効になります。その為には「人材育成」という技術的課題に対応が出来た方が、よりクライアントの適応課題(答えのない課題)への対応力が増すのではないでしょうか。
このようなこと等も踏まえながら、「傾聴」の態度には6種類ある事を思い出しましたので、整理してみました。
①解釈的態度(話を自ら解釈する)
②評価的態度(今回の事例:「そんな事は自分で判るでしょ」という態度も含めて関わる)
③調査的態度(相談者が求めていないにも関わらず、やたら周囲との関係や状況を訊きたがる)
④指示的態度(相談者が知らない解決策はこの点ですよと聴く)⇔専門知識はバックボーンに置いておかないと危険です。
⑤支持的態度(安心感を与える態度=カウンセラーの基本的な関りの態度:積極的傾聴)
⑥理解的態度(無知の知=カウンセラーの態度:積極的傾聴)
無知の知:専門家としての知識は知っているけど、棚に上げておいておく態度のことです。
相談者からの単純な質問(具術的課題)には、知識を棚から降ろしてしっかりと答えて、相談者を安心させて関係性を構築する必要があります。この辺りも難しいところですね。すぐ続いて相談者の感想を確認するのが良いような気もします。
次のように見る事も出来ます
①~④:カウンセラーが自身の心理構成主義に立つ (問題・解決をカウンセラーの中で構成する)
⑤~⑥:カウンセラーは社会構成主義に立つ(問題・解決をクライアントとの対話の中(二人の間)に構成する。)
☆逆に言えば、クライアントが技術的課題のみを問題としているのであれば、①~④の傾聴でも有効になります。
( )内は感覚を追記してみました。
参考)ハイフェッツの「技術的課題」と「適応課題」
技術的課題:すでに解決の為のノウハウや手順があるもの。既存の知識で実行が可能
適応課題 :当事者にとってその状況に適応するチャレンジが必要なもの
自分たちの思考様式や価値観、行動を変えてゆく必要があるもの
参照)マネジャーによる職場づくり 理論と実践 中村和彦著 日本能率協会マネジメントセンター 2021年9月
(P30-34)