2.豊かな社会の特徴
1)人類の夢 ━ 豊かな社会
貧しい社会:人類有史以降の社会 ⇐「欠乏」「貧困」「生活上の不安」等が内在していた。
| ⇒人類有史以来の歴史・・・・・貧困との闘い
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(生産性の向上)
| アメリカ「黄金の1920年代」(バブル経済)
| Frederick Lewis Allen "Only Yesterday ~An Informal History of the Nineteen Twenties" 1931年
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豊かな社会:1950年代のアメリカ社会
※「我々はアメリカにおいて今日、いかなる国の歴史においても、かって見られなかったほど貧困に対する最終的な勝利に近づいている。・・・・・我々はまだゴールに到達していないが・・・・・・神の御加護によって、この国から貧困が駆逐される日も近いだろう。」
(第31代アメリカ大統領 ハーバード・フーバーの1928年8月10日「共和党大統領候補者受諾演説」)
J. K. Galbraith ”The Affluent Society” 1958(「ゆたかな社会」1960年)でガルブレイスが」指摘した「豊かな社会」の新しい問題
現代社会はかっての貧しい社会とはかけ離れているのに、従来の貧しい社会に出来上がった経済学の古い観念(通念)に捉われ、現実を捉えようとしない。⇒「理論と現実の乖離」
・欲望・欲求の人為的な創出である。
⇒本来、生産は欲求を充足させるものであったが、「欲望・欲求」が先行指標となり、生産性の向上を図ることになる。
・消費者負債を更に生み出すシステムが制度になっている。
⇒インフレーション・デフレーションという難問を抱える
・社会的なアンバランスが発生する。
・公共部門による公共的投資の軽視
・物的資本への投資の重視/人的資本(教育)への投資の軽視
・豊かな社会の中で「島」の形となった貧困
2)デモンストレーション効果と依存効果
⇒豊かな社会における消費者の行動傾向
デモンストレーション効果 ⇐========➱ 依存効果
(demonstration effect) (dependence effect)
※デモンストレーション効果(demonstration effect)
個々人の消費支出が自己の所得の絶対額だけでなく、他社の消費水準や生活様式によって影響を受ける
〈個人消費の水準は、家計の所得の多少によって左右されるだけでなく、
周囲の消費水準によっても影響を受けるとする消費理論〉 ←J.S.デューゼンベリー(1918~2009)が提唱
〈消費者の相互接触〉 → 〈欲望の形成〉 → 〈購買行動〉〈誇示的消費〉
⇧ (Conspicuous consumption)
⇧ ⇩
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参考)
J.S.ゼンベリーの主著
・James Stemble Duesenberry
・"Income Saving and the Theory of Consumer Behavior" 1949年
・”Business Cycles and Economic Growth” 1957年
・”Money and Credit ~ Impact and Control ~"
※依存効果(Dependence Effect)
「欲望」の発生は、欲望を満足させる過程に依存する。 ←J.K.ガルブレイス「ゆたかな社会」 第11章 P157
《豊かな社会の欲望満足過程》
⇒ ⇒
「生産」 「欲望」 「消費」 (豊かな社会では)「消費」が「生産」に依存する
↑ ⇐ ↓ ⇧ (1950年代のアメリカ)
←━━━━━━━━━━━━━ (貧しい社会では)「生産」が「消費」に依存する
(過去)
※現実の変化
「記述論」(descriptive theory)
3)販売とマーケティング
P. F. Drucker ”The Practice of Management" 1954年 「現代の経営」
※「現代の経営」 第5章 「事業とは何か」より
1900年以降のアメリカ経済 = 「マーケティング革命」
当時(1900年頃)のマーケティングについての典型的な考えは、
「工場が生産したものならどんなものでも販売部門が売る事」
→企業が生産したものを消費者に買わせて消費させること→「販売」(Sales)
⇩
今日(1950年頃)では、それが「市場が必要とするものを生産する事」に変わりつつある
→「市場が必要とするものを生産することが我々の仕事」
「マーケティング(marketing)は、販売よりはるかに大きな活動である。
それは専門化されるべき活動ではなく、全事業に関わる活動である。
まさにマーケティングは、事業の最終結果、すなわち顧客の観点から見た全事業である。」
「生産」 ⇒ <宣伝・広告> ⇒ 「販売」 ━━→顧客による購買・消費
(Ballyhoo) 〈売りつける〉
⇩ ※宣伝・広告による顧客の心理操作
誇大広告
※Frederick Lewis Allen "Only Yesterday ~An Informal History of the Nineteen Twenties" 1931年
F.L.アレン「オンリー イエスタディ」
同著 第8章 「誇大広告時代」(The Ballyhoo Year)に、マスメディア(新聞・雑誌・広告代理店・ラジオ)の利用による派手な広告宣伝(ニュースや考え方の大量生産)による顧客の欲望の操作・心理操作の記述がされている
・マーケティング
⇧ 売る努力をしなくても売れる状態を作り出す活動
市場調査・市場分析による顧客ニーズの把握 → 顧客ニーズを満たす製品・サービスの開発・設計
→ 生産(製造) → 宣伝・広告/広報 → 顧客による購買・消費
(advertisement/ publicity)
⇧製品・サービスの存在の的確な周知
製品・サービスの性能・機能についての情報
P. F. Drucker ”The Practice of Management" 1954年 「現代の経営」
「販売」《現実》
⇩
「マーケティング」《規範》(実現を目指すべき価値)
※ドラッカーのマーケティング論は「規範論」(normative Theory)
3.計画化体制
1)イデオロギー(ideology)と経済体制
※ideology‥‥‥価値・信念・態度・意見の体系
<経済体制> <経済学>
「自由」(freedom/liberty) ‥‥‥‥‥‥資本主義 (アメリカ合衆国) 新古典派経済学
(capitalism) ↑
(人間はそもそも個人(individual)として |
本来は何ものにも束縛支配されない自由な存在) 「東西冷戦」
↓
「平等」(equality) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥社会主義 (ソビエト社会主義共和国連邦) マルクス経済学
(すべての人は人間として平等) (socialism) (1922~1991)
※ともに連邦国家(外交権等を有する中央政府のもとに一つの国家を形成)
【以下、上記の図と縦横入れ替わります】
《自由⦆ 《平等⦆
(資本主義) (社会主義)
新古典派経済学 (理論) マルクス経済学
「競争(competition)による活力」 (キーワード) 「計画化(planning)に基づく統制」
⇩ ⇩
市場(market) による非人為的調整 国家の計画主体による人為的調整
⇩ ⇩
経済の成長と発展 =社会の福祉(幸福)の増大= 能率的な生産と公平な分配
「自由競争」⇒多重投資⇒資源の浪費⇒非能率 「計画化による資源の適正配分」⇒能率
⇩ ⇩
⇩ ※資本主義では必然的に「過剰生産不況」が発生する
非能率企業の淘汰⇒能率
<富める人と貧しい人もそれぞれにそれなりに幸福> <社会を構成するすべての人の平等な幸福>
(目的)
「経済の最適状態」
※1950年代の後半、大衆社会論から産業社会論への移行過程において、「もはや、イデオロギーの時代は終わった」という主張が現れてきた。今日、階級間格差の縮小、福祉国家政策の展開、社会の諸領域における「管理」の深化、これら産業社会のもとでの改良主義(reformism) の諸施策によって、少なくとも高度に産業化(industrialization)された社会では「イデオロギーの終焉(end of ideology)の時代に入ったとされる。
D.ベル「イデオロギーの終焉」1960(岡田直之訳 惣元新社 1969)において、ベルによれば、イデオロギーの終焉とは〈基本的にはマルクス主義の終焉を意味する〉としている
【2022年初頭では、更に高度な産業化が進んでいるにも関わらず、貧富の差(階級間格差)は再び大きくなっている。
共産党支配の中国においても、貧富の解消が課題となるような時代になっている。この原因・要因はなんであろうか?】
2)新古典派経済学(neoclassical economics)の理論
J. K. Galbraith ”The New Industrial State” (「新しい産業国家」) ← 新古典派経済学批判の書
<第3版のへの序文>から
「経済学者の中には、自分が若い時に教え込まれてきた事柄〈※〉を何であれためらいもなく、絶対的な常識と信じている人たちが相当数ある彼らにとっては、自分が慣れている考え方と相容れないものは何でも劣って見える。
この傾向を危険なほどまでに助長しているのが、数学の利用、さらには理論的モデルづくりの能力である。」
「‥‥‥‥批判は、‥‥‥‥より多く批判者自身について、ないしは、彼の知的活動の基礎となっているものの幅の狭さについて語ることになってしまうのだ。」
<※>「古典的な競争市場という陳腐な考え方」=「経済社会に関するありきたりの教科書的なイメージ」
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<<1960年代以降のアメリカ経済社会の現実との不適合>>
「‥‥‥‥正統派経済学(=新古典派経済学)の古くからある自己防衛的三段論法で処理しようとする人達についても同様である。この三段論法は‥‥‥‥そこには真理もある‥‥‥‥しかし、それは完全な真理ではない。従って‥‥‥‥これらを受け入れる必要はなく、科学の名において受け入れるべきでもない。今まで通りの教義を信じ、それを教えていれば良いのだ、と。この三段論法を逃げ道に使う人たちは、なかなかに多いのである。」
・新古典派経済学の理論 or 仮定(公準)
<新古典派経済学は、経済を経済主体(生産者・消費者)の最適化行動と需給均衡の枠組みで捉え、市場メカニズムが機能すると効率的な資源配分が実現すると言う考えで評価する。>
・経済活動において、利己的で経済的自己利益(self-interest)を最大化(maximaization)しようとして行動する完全に合理的な人間=経済人(economic man/homo economics)モデル
⇒<理論構築の為の単純化の産物>=実際の人間の近似的モデル
・財に関するすべての情報を経済主体が入手できるという「完全情報の仮定」
⇒このような仮定により、
「一物一価」の法則が成立する。
・取引にあたって必要な費用が一切かからないとする「取引費用(cost)ゼロの仮定」
・市場(market)に影響を与える力をもたない経済人としての個人及び少人数の個人からなる小組織による取引
⇒競争的市場の作用⇒需要と供給の均衡(経済の最適状態の実現)
(「見えざる手」A.Smithとされる)
A.経済人(economic man/homo economics)モデル‥‥‥‥経済主体が完全な経済合理性
⇩
利潤極大化行動
B.経済主体による市場への順応 → 競争原理による経済の最適化
⇒上記のA&Bは、アメリカ1840年以前(産業化前)の伝統的アメリカ経済の現実を抽象化している
3)アメリカ資本主義の経済の現実~変化の兆し~
※伝統的個人企業 ⇒ 企業者的企業 ⇒ ビッグ・ビジネス ⇒ 近代株式会社 ⇒ 巨大法人企業
〈1840年代〉 〈1860年代〉 〈1890年代〉→
《産業化⦆ 《金ピカ時代⦆
※1860年代以降の「金ピカ時代」(企業者の登場)とビッグ・ビジネス(企業者的企業)の形成
※企業者活動(entrepreneur ship)の一例 ~J.D.ロックフェラーの石油トラスト~
<企業者精神/企業者機能> John David Rockefeller,sr (1839~1937) アメリカの石油王
慈善家(ロックフェラー財団)
・ John David Rockefeller, Srの石油トラスト(企業合同) ・独占的企業の形成
・石油トラストの結成 ⇒巨額の資産
*J.D.ロックフェラー、A.カーネギなどの企業者類型《企業者行動の動機》をヨーゼフ・アーロイス・シュンペーターが述べている。
Joseph Alois Schumpeter "THEORIE DER WIRTSCHAFTLICHEN ENTWICKLUNG" 1926(「経済発展の理論」)
(原書 P138~139)
・私的帝国、あるいは、自己の王朝を建設しようとする夢想と意思
・闘争意欲、あるいは、成功そのものの為の成功獲得意欲(勝利者意思)
・行為に対する喜び、あるいは、新しい創造そのものに対する喜び(創造の喜び)
※経済的動機(利益/利潤(Profit)の獲得・最大化←新古典派経済学の前提)とは異なる
・J.D.ロックフェラーの慈善的寄付 ※慈善活動の背景 ジョン・ウェスレー(John Wesley)
・教会への寄付(若いころから収入の10%を寄付=10分の1税) (1703~1791)プロテスタント牧師
・教育機関/医学への寄付 メソジスト(methodist)派の創始者
⇩
1913年:ロックフェラー財団設立
4)新古典派経済学の前提と企業者及び企業者的企業
<企業規模の大規模化>
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━➡
〈伝統的企業〉 ⇒ 〈企業者的企業〉 ⇒ 〈近代株式会社〉 ⇒ 〈巨大法人企業(巨大株式会社)〉
(A. D. Chandler, Jr) (A.A. Berle, Jr / G.C. Means) (J. K. Galbraith)
・経済人モデル ⇐━<矛盾>━━⇒ 企業者の慈善活動
(経済的動機;利益の獲得・利潤の最大化 ≠ (企業者の動機)
・競争的市場 ⇐━<矛盾>━━⇒ 企業者的企業の独占による市場支配
5)企業による計画体制の概要
●社会主義経済体制 ・国家による計画化
●資本主義経済体制 ・政府による経済政策に基づく計画化
・巨大法人企業による計画化 ‥‥‥‥ (技術要請に基づく計画化)
参考)
「現代」
「変化」 ━━━━━━━━━━━━━《適応》━━━━━━━━━━━━━━━━「巨大法人企業」
⇩
「計画化経済」 ←━━━→ 「市場経済」
(the planning system)
《要点》
詳細は、「新しい産業国家」第1章 「変化と計画化体制」を参照
・現代(modern)‥‥‥‥同書では「今世紀になってから、わけても第2次世界大戦の勃発以降」としている。
⇒理由:ガルブレイスは「軍産複合体制」を含めたい意向があった。
※本講座では「現代」は、〈第2次世界大戦終結後〉と定義している。 ・変化‥‥‥‥・複雑化し、高度化した技術の使用
・機械による筋肉労働(manpower)及び人知(human intelligence)の代替
・公的部門の拡大(連邦/州政府・地方公共団体の提供するサービス/全経済活動:1976年22%←1929年8%)
・景気循環(の顕在化)
・財貨(goods)の販売に関する説得および勧奨の仕組みの巨大な成長=マーケティング
・労働組合の衰退
・高等教育機関の拡大・拡充
・巨額の資本調達と資本投下 ⇒
・懐妊期間(経済学用語:効果を得るまでの期間のこと)⇒「資本」と「組織」の固定化
・国家にyる技術開発リスクの軽減
・巨大法人企業‥‥‥‥・企業の巨大化
・専門経営者の支配
・計画化体制‥‥‥‥「巨大法人企業によって特徴づけられる経済の部分」
「巨大法人企業の経済的・社会的・政治的影響力が及ぶ諸要素の複合体」
この内容は、ブログ『「企業と社会」問題 ("Corporation and Society" Problem)』の続きになります。
(上智大学 ソフィア・コミュニティ・カレッジでの
小林順治先生の2013年春「現代企業の特質」の講座内容をもとに作成)