ナラティブ・セラピー(ブリーフ・セラピー)と構成主義のキャリアカウンセリング、キャリアコンサルティングの違いについて、SocialGoodキャリア®としての定義をまとめています。それぞれが課題解決においては重複する部分が多くあるということは前提にしています。
・ナラティブ・セラピー
「過去から現在に至る問題のストーリー」を過去の「問題から解放されたストーリー」への転換を図ることを重視して いる。
来談者は一般的になんらかに悩んでおり、ゴールイメージの設定などが必要となります。
・社会構成主義のキャリアカウンセリング
「過去から現在に至るストーリー」の中に意味を見出だし、その意味に基づいて「未来のストーリー」を構築すること。
来談者が悩んでいるとも限りません。
来談者は、転職や社内問題の解決、キャリアアップ等のゴールのイメージを前提としての相談も多くなります。
来談者のキャリアに対する考え方に関するリフレーミングが基本になります。
支援者側の概念をクライアントに投影しないという点も大切になります。
・「対話型」キャリアコンサルティング
キャリアカウンセリングと同様に「未来のストーリー」を構築するが、それはクライアントが今後に属する組織においての「キャリア」の充実を伴う必要があります。組織全体の結果の充実を目指す事が含まれることが大切だと考えます。
悩みを抱えてのセラピーを求めての来談は少なく、就労の実現、キャリアや組織の活性化・目的達成等、クライアントにとっての改善すべき課題やゴールのイメージが比較的に明確になります。「助言と指導」を提供し、ゴールイメージの実現を図ります。
組織における事例で示すと、以下のようになります。
●クライアントが、職場内での他者の行為が気になり、耐えられないと相談に来られた場合、
- ★ナラティブ・セラピーでは、「クライアントが外在化をしたり悪循環を断ったり、平穏な気持ちで職場ですごせる」ことが重視されます。基本はクライアントの不安の解消で、他者の状態や他者との関りの変化はあまり問題とされません。
- 社会構成主義のキャリアカウンセリングでは、クライアントが望む状態に対してなぜそのように望むのか等から、内省を促し、自己概念を探ってもらい、クライアントの自己概念の成長によって、課題に対するクライアント自身のリフレーミングを行うことにより、今後に向けて課題の解決を図ります。この過程では、他者との相互作用も確認されますが、それはあくまでクライアントにのみフィードバックされます。
- 「対話型」キャリアコンサルティングでは、キャリアカウンセリングの観点に加え、組織内で負担となっている他者との相互作用に更に着目します。クライアントと他者との軋轢(コンフリクト)が、経験の「統合」により解決されることを目ざします。クライアントの職場内でのキャリア発達を前提として、職場での相互関係のリフレーミングによる解決を目指します。
更に「助言と指導」により、この「統合」による組織のパフォーマンス向上(生産性の向上)をもって、クライアントの外的キャリアの実績の獲得が図られるような解決を目指します。
ある勉強会で、「キャリアコンサルタントの使命は、社会における企業の生産性をあげることである。」との発言がありましたが、キャリアコンサルティングの役割を考える上で、ひとつの大切な視点です。
以上、同じ問題に対しても、それぞれで基本的な課題解決に対する「マインドセット」の違いが、存在すると捉えています。
参考)
「社会構成主義 キャリアカウンセリングの理論と実践(2015年) 福村出版
第6章キャリアカウンセリングにおけるナラティブ・アプローチ(P197~)
注)上記のような違いはありますが、実際には同一セッションの中でクライアントの状況に応じて対応する必要があります。
その為に、キャリアコンサルティングを通じた「セルフマネジメント」の支援をベースとし、そこに動機付けが必要であれば、「セルフアウェアネス」の為のキャリアカウンセリングを、その中で更にセラピー的な係わりが必要であれば、ブリーフセラピーやナラティブ系のセラピーをより意識して、それぞれの比重を変えてゆくようにしています。
キャリアドッグ等でのキャリアコンサルティングにおいては、クライアントはセラピーを最初は期待していないので、入り口をセラピー軸から入ってしまわないようにキャリアコンサルタントとしての注意が必要になります。