経営学・組織論(の源流)における社会構成主義的な捉え方として感じられる内容をまとめています。
フォレット、バーナードやドラッカーの初期の時代には、まだ明確に社会構成主義という言葉がありませんでしたので、反科学主義主体、ポストモダン主義等というニュアンスで表現されています。その点を踏まえて、経営組織論での後に成立する社会構成主義との共通点と考えられる部分の整理をここでは試みています。下記のフォレットに関しても、社会構成主義の第一人者ガーゲンの書籍でもこの点が少し触れられています。
社会構成主義は1966年に出た概念でそれ以前には存在しませんが、仮にモダン主義の思想を本質主義とおいてみると、
社会構成主義(ポストモダン主義・全体性《システム論》・多声性 ・関係性・対話型・動的分析・解釈主義・相対的事実)
本質主義 ( モダン主義 ・細分化《原因の追求》・唯一の解・唯一性・診断型・静的分析・実証主義・客観的事実)
と、大まかに捉えることができます。このように捉えてみると、社会構成主義の全体性・システム論・関係性と言う点で組織論(経営学)の成り立ちにおいては、社会構成主義の概念が少なからず含まれているようにも思われます。
☆M.P.フォレット(Mary Parker Follett, 1868-1933)
(M.P.フォレットの思想については、こちらでもまとめています。)
社会構成主義に関する書籍「関係から始まる ━社会構成主義がひらく人間観━、ケネス.J.ガーゲン、2020年」の第10章組織のP384には『ある人の仕事に意味を与えているのは、その人個人ではなく、環境の力でもなく、この《日常的な》一群のやり取りに参加することである。」とあり、その注釈(6)として「組織研究分野において、組織の満足は構成するメンバーの心の中ではなく、関係のプロセスから生まれることを最初に示した人物として、メアリー・パーカー・フォレットの名前を挙げておかなければならない。ボーリーン・グラハムのMary Parker Follet, Prophet of Management (Frederick, MD: Beard, 1995)と示されています。
フォレットは、経験を基礎とした個々人の相互作用により、組織や社会の新たな価値が生み出されて行くとしています。
『フォレットの 創造的経験(Creative Experience )(1924年)における中心的なアイデアも、共に新たな考えや新たな価値・新たな状況を創り出していく創造的経験にある。この創造性は、後の「統制の心理学」の中では「創発(emergence)」として表現され、フォレットは、統合による社会過程を「相互作用(interacting)」、「統一化(unifying)」、そして「創発」(emergence)の三つの側面から捉えられるとしている。つまり、相互作用が行われ、それが積み重なり相互に浸透して統合に向かおうとするとき、それぞれの相異は統一化され、もっと広い視野に立つ価値が生じてくると捉えるのである。そして、このときに、関係づけにある個々人の人間的な向上があり、関係性が充実していくと説いている。』
また、個人間の相互作用(対話)により、組織・社会が構成されるとしています。社会構成主義ではベイトソンの円環的因果律 (circular causality)が有名ですが、フォレットはそれ以前に円環反応(circular response)としてその概念を示しています。
『フォレット理論の特徴は、まず、個人、組織、社会の関係をすべてプロセスとみなすことにある。すなわち、個人が他者との相互作用を通して組織という社会過程をつくり、さらに組織と組織、個人と組織のそれぞれの相互作用の中で社会ができるというように、「個人―組織―社会」と連なる動態的プロセスとして三者の関係を捉えている。かつ、「相互作用」(interacting)、「統一化」(unifying)、「創発」(emergence)の 3 つのカテゴリーをカギとする動態的プロセスとして捉えているのである。
すなわち、第一に、フォレットは、個人と個人、個人と全体の「相互作用」を「円環反応」(circular response)と捉えている。
第二に、人々が相互作用を繰り返しながら全体状況を作っていく中では、当然人びとの欲求の対立(conflict)が生じるが、フォレットはコンフリクトを統一的全体の動態化の契機としてとらえる。そして、コンフリクトの建設的な解決によって、状況を進展させようと考えるのである。すなわち、フォレットは、コンフリクトの解決方法には、「支配」(domination)、「妥協」(compromise)、「統合」(integration)の3つがあると考える。
第三の「創発」は、全体状況が展開するために統合による新たな価値が生まれることを言う。フォレットは人々の相互作用を「円環反応」という概念で表し、その過程で生じるコンフリクトの解決には「統合」というプロセスがありうることを示し、そのプロセスを「統一体化」と言い、そこから新たな価値が「創発」することを展望したのである。 』
『経験は、他者との関係によって織り続けられていくものであり、この意味において、個人と個人、個人と組織・社会を結びつけていく核心にある。統合を目指して共に考え、共に議論し、共につくり出そうとする人々の経験の交織によって、人々のエネルギーの解放や力の喚起が生じ、経験は創造的なものとなる。それは、人々を成長させ、同時に関係性を充実させて、より高いレベルの状況を創り出す。これが統合の実現であり、共に創り出していくことで、人々は満足に至り、人々の多様性も豊かになる。この人々のエネルギーの解放や力の喚起を、フォレットは創造的経験の本質として捉える。』
『フォレットにとって、対象世界の認識はその世界に対するわれわれの「さまざまな応答、つまり活動を通じて」なされるものであって、活動から切り離された事実認識などありえなかったということである。さらに、第二の論点を加味すれば、フォレットにおいて「状況」とは、人びとの相互作用により、共通意思が存在する場であり、個人はそれを自覚しつつ、自らコントロールして社会的機能を果たし、同時に状況全体もコントロールされていくと考えられていたということになる。フォレットは社会を、主体と客体、主観と客観が同時に内在する「状況」と捉え、さらにそこでは各主体は部分の相互関係を認識し、常に全体を意識していると捉えていたというわけである。 』
これら社会構成主義的な思想を1920年代にはフォレットは指摘したのですが、その点は「関係から始まる ━社会構成主義から始まる人間観━ (Relational Being; Beyond Self and community) ケネス・ガーゲン著」でも示されています。
参考)
創造的経験 M.P.フォレット著 監訳者 三戸 公 (2017年7月 (株)文眞堂)
「博士論文 M.P.フォレットの「経営管理」論をめぐって ―「統合」を促す契機を探る―
2019 年 1 月 滋賀大学大学院経済学研究科 経営リスクマネジメント専攻 氏 名 石橋 千佳子 」
「M. P. フォレットの創造的経験と統合の過程 ― Creative Experience を中心として― 2018年3月
北九州市立大学大学院社会システム研究科 博士(学術)学位請求論文 西村 香織」
「関係から始まる ━社会構成主義がひらく人間観━」 ケネス.J.ガーゲン著
鮫島輝美・東村知子訳 (株)ナカニシヤ出版、2020年9月 (第10章 組織(P384・P420))
☆C.I.バーナード(Chester Irving Barnard、 1886年 - 1961年)
バーナードの理論自体は最近あまり耳にしなくなりましたが、過去一時期はバーナード/サイモン理論として人間関係論と名付けられていました。つまり人間の関係性・相互作用によって組織・社会が構成されるということであり、組織をその全体性と環境との相互作用を念頭にシステムとして把握した理論です。
「経営者の役割」の日本語新訳版では、「システム」を「体系」と訳している為に余計に全体が解かりづらくなってはいますが、組織をシステムとして捉え、個人の相互作用つまりコミュニケーション(対話)により組織全体が成立することを明確にしています。バーナードの理論もフォレットの影響を受けていますので、社会構成主義の側面も観ることが出来ます。
組織における公式なコミュニケーションとインフォーマルなコミュニケーションでの対話やそこで成立するディスコースが組織に大きく影響を与えるものとしています。組織=協働は、人・目的・コミュニケーション(伝達)によって成り立つとしました。
また、バーナードの特徴的な概念である組織の「有効性」「能率」について、フォレットとの関連で確認をしておきます。
・組織の有効性⇒全体状況(P246)
組織の有効性は、最終目標を達成する為に、「全体状況」の下で選択された手段が適切であるかどうかという事だけに関係がある。(外部環境との調和)
・組織の能率(P250)
組織に適応される場合の「能率」という意味は、組織活動を引き出すに十分なほど個人の動機を満足させて、組織活動の均衡を維持する事である。(内部環境の調和)
また、協働(Cooperation)と創造については、
『協働は何物かを創造せねばならず、交換は分配要因であり、調整は創造要因である』(P264)としています。
また、個人の組織への参加については、「誘因」と「貢献」のバランスの問題としています。特に「誘因」について強調しています。現代においても個人の主体性を向上させると、異動や離職希望につながるという言う声がありますが、これは組織マネジメントにおける「誘因」という概念についての理解不足とも言えます。
以下、彼の主著「経営者の役割」(The functions of the Executive 1938年)の後半部分を中心に社会構成主義的な主張を抜き出してゆきます。「経営者の役割」のテーマは、基本的には以下の内容だと考えています。
『社会改造の文献において、現代の不安にふれない思想はひとつもないが、具体的な社会過程としての公式組織に論及しているものは事実上まったく見当たらない……。
……政治的分野においてみられる信条や利害の対立の多くのもの━それをスローガンで示せば、「個人主義」「集産主義」「中央集権」「自由放任」「社会主義」「国家主義」「ファシズム」「自由」「集団編成」「規律」である━及び産業の分野におけるある種の無秩序は、具体的な状況における個々人の社会的な立場と人格的な立場についての考え方を、直観的に、その他の方法で、いずれによっても調和しえないためである。』
このテーマにも基づきながら内容を抜き出していきます。
第17章 管理責任(executive responsibility)の性質(特徴)
『「責任」という言葉に含めるリーダーシップの側面(一面)であり、人の行動に信頼と決断力を与え、目的に先見性と理想を与える性質である』(P271)
第5節 リーダーシップと協働体系の発展
『人間協働における最も一般的な戦略要因は管理能力である』(P294)
『組織の存続は、それを支配している道徳性の高さに比例をする。すなわち、予見、長期目的、高遠な理想こそ、協働が持続する基盤なのである。かように、組織の存続はリーダーシップの良否に依存し、その良否はそれの基礎にある道徳性の高さから生ずるのである』(P295)
『組織道徳の創造こそ、個人的な関心あるいは動機の離反力を克服する精神である。
リーダーシップは、・・・・・必要欠くべからざる社会的な本質的な存在であって、協働目的に共通の意味を与え、他の諸誘因を効果ならしめる誘因を創造し、変化する環境の中で、無数の意思決定の主観的側面に一貫性を与え、協働に必要な強い凝集力を生み出す個人的確認を吹き込むものである。
従って管理能力とは、主としてリーダーの外部から(外部に)生ずる態度、理想、希望を反映しつつ、人々の意思を結合して、人々の(人々に)直接目的やその時代を超える目的を果たさせよう自らを駆り立てるリーダーの能力である』
『これらの目的が高くて、多くの世代の多数の人々の意思が結合される時には、組織は永続的に存続することになる』
『なぜならば、永続な協働の基盤となっている道徳性は多次元だからである』(P296)
『かように、協働する人々の間では、目に見えるものが、目に見えないものによって動かされる。無から人々の目的を形成する精神が生じるのである』(P297)と、
バーナードは、組織における人々の意思の結合やそれらを経た人々の目的を形成することが大切だと主張しています。
第18章 結論
第1節 要約
(12)では、以下のように述べられています。
『科学的知識はすべて言葉とか記号体系によって表現される。言葉や記号は、社会的に決定される意味を持って社会的に展開されるものである。すなわち、現象についての「終局的に」受け入れられる表現は、すべて協働的に到達したものなのである。従って、広義におけるすべての科学は、社会的要因と共に取り扱う主題に応じて様々な他の諸要因を含んでいる』
『二種の抽象的な知識体系が存在することになる。
a)(物的、生物的、社会的)諸要因のいずれか一つにもっぱら、あるいは主として関係する体系
自然科学の諸体系、(日常的ないし商業的な素材分類のごとき多くのサブシステムを含む)、生物学体系ならびに純粋に理論的な社会学体系である。
第一種の抽象体系は、基本的には科学的であり、また実践的であるが、協働現象を説明するものではない。』
b)二う以上の要因と「交差する」か、それらを内包する体系である。
生化学体系、建築学体系、工学体系、その他の技術学体系、ならびに心理学体系、経済学体系、社会的、政治的および倫理的体系である。
基本的に実践的であり、同時に科学的研究の主題でもある。
一般に、この抽象体系は協働体系の性質についての理解なしに展開されるので、その性格と有用性の限界がしばしば誤解されるのである。』(P300~301)
と、その当時において協働について、既存の科学知識によっての充分な科学的な解明がなされていないことを説明します。続いて
『(14)協働の戦略的要因は一般にリーダーシップである
(15)リーダーシップの動態的表現の戦略的表現は道徳的創造性であり、それは技術的な熟練とか、それに関係ある技術の発展に先行するのであるが、また、それらに依存するものである
(16)社会的統合の戦略要因は、リーダーの育成と選択である。・・・アンバランスになりがちである』(P302)
と、道徳的創造性を持ったリーダー像の大切さがまとめられています。
第2節 組織理論の根本問題
『人事管理の努力が失敗する背後には。著者のいう「誘因の経済」が完全に理解されていないことがしばしばある』
『成功していない経営の多くは、経営思考の上で、権威の主観的側面をほとんどまったく無視していることから生じる。公式組織の中にある非公式組織は、重要であるにも関わらず、出来るだけ無視されている』(P302)
『このような欠如は、一部は科学の専門化から生ずる思考の専門化によって促進されている』
『相互調整の問題は、それらの特定分野以外の(範囲を越えた)問題である』(P303)
と、組織における「誘因」の欠如と専門化思考の弊害を示しています。
本編の最後に
『我々は再び出発点のあの問題に立ち返ることになる。』
『個人主義の旗印をたてるものは個人の選択権を求め、国家と社会の為に高らかにラッパを奏でるものは、個人の選択の愚を表明し、それを阻止しようとするのである』
『今では社会的競技のために戦う国家間の戦場となっている』(P308)
『私はこの論点を、・・・・・・協働における人間行動、組織の社会的制約および管理者の本質的任務の中に見出したのである』(P308)
『私は人を自由に協働せしめる自由意志を持った人間による協働の力を信じる。また、協働を選択する場合のみ完全に人格的発展が得られると信じる。また、協働を選択する場合のみ完全に人格的発展が得られると信じる。また、各自が選択に対する責任を負う時のみ、個人的並びに協働的行動のより高い目的を生み出すごとき精神的結合に入り込む事が出来ると信じる。協働の拡大と個人の発展は相互依存的であり、それらの間の適切な割合すなわちバランスが人類の福祉を向上する必要条件であると信じる。それは社会全体と個人とのいずれについても主観的であるから、この割合がどうかということを科学は語りえないと信じる。それは哲学と宗教の問題である』(P309)
と、最後に結んでいます。社会問題の解決は、個人の相互作用を踏まえた協働と個人の発展に負うということが示されています。社会全体と個人のバランスは科学では語りえない、その当時の概念では哲学と宗教の問題であるとされています。「哲学と宗教」の部分について、SocialGoodキャリアでは、社会構成主義の概念の中で、個人間の相互作用の結果として創造されるディスコースだと想定しています。
本編では、バーナードが組織を個人の相互作用を通じた協働の場であるという社会構成主義的概念を本質論的な視点をベースとした科学的解説を目指したように感じます。
(太字は社会構成主義的な発想を示す為に、筆者が追加で表示)
「経営者の役割」には、本編の最後にプラトン「法律論」からの引用が示された後に、続いて付録として、「日常の心理」という講演内容をまとめた内容がつけられています。ここの部分は、バーナードが本編の科学的分析では説明できなかったエグゼクティブ(経営者・マネージャー)に必要なマインドセット(精神)について、本編では基礎とした科学的な論理的過程への批判も交えながら、この付録の部分で提示しているとも見ることが出来ます。この付録の部分については、最初、本質主義的価値観をもとに読んだ時はあまり理解できませんでしたが、私の先生によるとここが本当にバーナードが伝えたかったことかもしれないとのことです。今回、改めて社会構成主義的視点で読むと理解できた部分も増えたので、以下にまとめています。
付録 「日常の心理」
『ここで私が試みるのは、日常業務にあたっての人の精神的側面についての私個人の態度、あるいは理解を述べる事である』(P313)
『困難の一つは、新しい仕事とか新しい地位に対して適応することが難しい事である』
『もう一つの困難は、最初のものと関係がある。それは、個人間、あるいは集団間に相互理解を得るのが難しいという事である』(P314)
『「論路的過程」とはこの場合、言葉とか他の記号によってあらわされる意志的思考、すなわち推理を意味する』
『「非論理的過程(=直観)」とは、言葉では表せない、あるいは推理として表現できない過程であって、判断。決定あるいは行為によって知られるにすぎぬものを意味する。』『この行為は無意識的であるから、あるいは非常に複雑で、またしばしば瞬間的と言える迅速さで・・・』(P314~315)
(※推理(detective)=探索)
『パレートの「一般社会学」は古今を通じての社会制度は、非論理的な動機を基礎としていること。しかもそれは条理を絶えず繰り返し云々していることを長編に渡って示している。歴史家、経済学者および日常における我々すべての誤りの多くは、その行為を条理に置くことが出来なかった、あるいはおくことが出来ない人に論理的推理力があるとみなす事から生じている。
かように、純理論的推論の真の有用性、教育に伴う推理の訓練、合理化の似非理論等、これらすべてが推理の重要性に誤った強調を与えるに至った原因である。しかしその弊害は、推理の誤用よりむしろ非論理的な精神過程の軽視を伴う事である、』(P318)
仮構(フィックション)
(※実際にはないことを存在するものとして仮に設ける事。想像によって作り出す事、また、そのもの虚構)
『仮構とは、理論的推論によっても実験的立証によってもその真実性が証明されないことが分かっているのに、一つの基本的命題が真実であるとの主張である。仮構は、公理、自明の理、公準、仮定、仮説、「当然」の真実等、いろいろの名で呼ばれる。』
(P328)
最後の問題 ━━ 反作用
『人間世界における意思の表明、情況の叙述、法律の制定、あるいは行為の決定などは実際界を変化させる。それは必然的に行為者の地位と行為の影響を受ける者の地位との双方に影響を与える』(P333)
ここでバーナードは、フォレットの指摘する「円環的反応」を指摘しているようです。
『この様な心理と社会分野との間の反作用は、それが大きい道徳的ないし倫理的緊張を生じせしめるという点で、特殊な精神的困難を起こさせるもとである』(P334)
と、バーナードは意図せざる結果についての言及に続けています。そして、次に「非論理的過程の重要性」にふれてゆきます。
『非論理的過程の重要性を認識し、それがいかに必須のものであるかを知り、さらに多くの状況と目的にとってその有効性を理解するだけでも、有害なある種の知的気取り根性を打破することが出来ると思う。この仕事は心理を「調整」することであり、その後は天性の欲するままにさせる事である。この調整は心理の内容を適当に豊富にすることからなり、非論理的能力を働かせることである。心理は経験と研究によって、その内容が豊富になるであろう。経験とは物事をなすこと、行為の責任を取ることである。経験は多量の素材が、心理の用途に供すべく無意識的に獲得せられる過程であり、知性は、有望な行為の分野(や)経験の道筋を選ぶことを助ける事が出来る。研究は、無統制な経験では知覚しえない事実、概念、類型を導入することによって、こういう過程を補完する。行為ないし経験は同時に実行の機会を与える。心理の力を発展させるには、心理を用い、適用し、作用させる以外には道が無いように思われる。』(P337)
ここでは、バーナードは「経験」の重要性についても記述してます。ここでの理解の為には、「心理」は自己概念や性格・人となりと理解した方が良いかもしれません。「推理」は、推測や推定と読み替えた方が判り易いかもしれません。
少しまとめを試みてみると、既存の知的概念を打ち破る非論理的能力の洞察能力を高める為には、自己概念が経験や研究により豊富にするしかないと記述しているように思われます。
『ここで私が強調しようとしたことは、論理的過程が多くの目的・状況にとって不十分であること、論路的過程を、精神的エネルギーや精神的熱意を表す非論理的、直観的さらには霊感的(スピリチャルな)過程と知的に調整しつつ発展させることがの望ましいということである』(P337~338)
『心理の正しい使用には、道徳的態度が必要だと思われる』
『すべての分野での心理の最高の顕示を必要とすると思われる指令・説得あるいはリーダーシップが含まれる時には、人格テストが知性及び道徳の最終テストとなる。
釣り合いの取れた心理が本当に必要であり、また、社会的に心理をより有効ならしめることが至上の仕事であるという感覚なしには、我々は文明社会の移り行く姿をほとんど洞察できない。社会がますます複雑化し、いまや技術と組織の精緻化が必要となり、その為の厳格な推理の能力がいよい よ必要とされることは明らかであると思われる。推理はそれを強化する為に非論理的心理を一層よく利用しなければならぬ上部構造である。(※1)「心理」なき「頭脳」は無益な不均衡であると思われる。(※2)方法と目的の矛盾と増大する専門化が生む大きな集団間の誤解の為に、最終結果・純利益・全体の関心を感じとる心理のごとき、あるいはまた具体的部分を知覚することが、同時に全体という見えざるものを含んでいるという心理のごとき矯正剤を必要とするのである。(※3)』(P309)
と述べられて、「付録 日常の心理」は終わっています。
非論理過程から得られる瞬間的知識は、「暗黙知」と言えるかも知れません。
ここでまずは※印の部分について、その内容について整理してみました。
※1 複雑・高度化する社会に対応をしてゆく為には、洞察力・直観力を知識の上に位置づけてに活用する必要がある。
※2 知識を得るだけで、経験に基づかない洞察力・直観力を持たないということは意味がないと思われる。
※3 高度化する組織における専門化(合理主義・テクノクラート)による官僚主義の弊害を最小限にし、組織全体の最終結果を実現する為には、個人間相互作用である経験(経験主義)を基にした最終結果等も含めて全体に対する洞察力・直観力・判断力が必要とされる。
以上のように、バーナードは一貫して専門家による知識(科学的知識の専門家による社会的構成)だけによる判断ではなく、個人間の相互作用の結果である経験(※研究も経験に含めています)に基づく洞察力・直観力(経験主義)が必要だとしています。
このように、人間関係論といわれるバーナードの思想について、その主著「経営者の役割」から、社会構成主義的な考え方と思われる部分を整理してみました。ここでの視点からは、バーナード革命を経営学における「本質主義的視点から社会構成主義的視点への転換」とも捉える事が出来ると思います。
一方、一般的に本質主義(機械的管理論)と捉えられているテーラーの科学的管理法が、本当に本質主義であるかどうかは、別途改めて考察をする予定です。
参考)新訳 経営者の役割(The Functions of the Executive)
C.I.バーナード著 山本安次郎・田杉競・飯野春樹 訳
ダイアモンド社 1968年8月 発行
☆P.F.ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker、ドイツ語名:ペーター・フェルディナント・ドルッカー 、1909年 - 2005年)
ドラッカーの思想も以下のようにポストモダンを前提とした社会構成主義に通じる考えがもとになっています。
「デカルトのモダン(近代合理主義)から、全体を全体として捉えるポストモダンへの移行を説くドラッカー」(P36)
「人・社会・マネジメントはすべてつながっている」(P37)
「ドラッカーの著作に通底する一連の視座が、近代合理主義なるものへの懐疑、あるいはその限界への認識に発しているのは紛れもない事実である。そして、彼が主張するポストモダンなるものは、精神的立場やその思考様式が、その背後にある歴史的・社会的に決定された存在につなぎ止められた状態を問うとともに、そこから一歩進んで世界に本来内在する自律性と主体的個との有機的相関にもとづく関係性の再構築に結び付くものであった。」
「彼がその主張の中で、デカルトやルソー、マルクスを名指しして、社会的存在と理念との間の利害関係の結合、そしてそこから当然に導出される必然の進歩なる概念を野蛮で暴力的なシステムと断定するのは、そこに見られる合理からの束縛を一義的に主張する立場から脱却して、新しい社会的認識を切り開こうとする野心を示していた。」
「それは途方もない多様性の追求と同義であった。価値観や認識、信条を単純に特定の理念に従属させる極めて荒っぽい方法は我慢ならないものだった。」(P157)
(━人・思想・実践━ ドッラカー学会 監修 2014年10月 文眞堂 より)
「『組織とマネジメント』という要素が、ドラッガー思想の中で、『自由にして機能する多元的社会』を実現する為の基幹的な役割を果たすことになる。」
(参考文献:社会的ネットワーキング論の源流━M.P.フォレットの思想━ 三井泉 著 文眞堂 2009年9月 P168)」
また、ドラッカーの「マネジメント」においても、構成主義的な部分を見つけ出すことが出来ます。
☆エドガー・ヘンリー・シャイン(Edgar Henry Schein、1928年 -2023年 )
『「プロセス・コンサルタント」=「対話型」を区別することを見出だしていった。プロセス・コンサルタントの特徴は、クライアント自身が自ら問題を解決し、学び方を学ぶような関係を彼らとの間に築いてゆことだ。』(参考:対話型組織開発)
プロセス・コンサルテーションに影響を与えたものとして、組織開発を社会構成主義の立場から規定し直した「対話型組織開発」をあげており、上記のように、「対話型組織開発」という書籍の序文を執筆しています。
☆アダム・スミス(Adam Smith、1723年 - 1790年)
アダム・スミスは、本質主義的である新古典経済学の基礎として引用はされますが、上記のバーナードから引用したように、そもそも経済学も2つ以上の要因と「交差する」それらを内包する体系として、物理学等の自然科学の諸体系とは区別されていました。また、アダムスミスも「道徳感情論」で以下のような趣旨を述べており、経済学も始まりはそもそも社会全体の関係性の変化を、人々の関与する経済を通して解明する社会構成主義的な学問であったとも言えます。
『人間はいかに利己的であるように思えようと、他人の運命に関心を持つ何らかの原理が本性の中にあるとし、人間が他人と同じ感情を抱こうとする「共感」が社会を形成とする前提と位置付けた。人間の社会に秩序をもたらすには、各個人が他人から見て「同感」を得られるように行動を律し、さらに社会の正義のルールを侵さないことが必要とした。』
☆C.ライト・ミルズ(社会学)(Charles Wright Mills、1916年- 1962年)
社会学的想像力(1959年初版)
「個人史と歴史、そして社会における両者の交差という問題に立ち戻ることなくして、社会を巡る研究はその知的冒険を全うする事は出来ない」(新訳ページ P21)
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